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Jailbreak Online  作者: BURN
58階
6/10

ラインハルト

58階の収容所には既に5人のプレイヤーがいた。


「よぉ、 ケイン遅かったな」


低めの声。 男性的でドスを聞かせたその声と裏腹にどこか陽気な印象も持つ。


背は恐らく190cm近くあり、 175cmあるケインも見上げなければならない高さだ。


ピンと伸ばされた背筋。 細長く黒い顔。 突き刺すような切れ長の目。 その威厳を感じさせる相貌には気圧される人間もいるだろう。


しかしその容貌は決して見かけだけではない。


彼の名はラインハルト。


このゲームにおいては常に2人の先を行くプレイヤーである。


収容所内は安全だからなのか、 武器の類は装備していなかった。



ラインハルトは二人を交互に見渡した。


「二人仲良くゴールかい?」


「まぁな」


ケインは特に気後れすることなく返事をする。 とはいってもエナキスにおぶってもらって辿り着いたので多少の恥ずかしさはあるのだが。


「しっかし57階のボスは強敵だっただろう? あれはお前とは相性が悪い。 かと言ってそこのエナキスちゃんとの相性も微妙だしな」


「俺の活躍――と言いたいところだけど、 結果としてはエナキスのおかげかな」


「『結果としては』って何よー。 私かなりがんばった気がするんですけど」


エナキスが頬を膨らめせる。


ケインはそれを横目で見て肩をすくめた。



このゲーム内ではプレイヤー同士の情報はあまり共有されない。


パーティシステムはあるものの、 全体に呼びかける方法がないため謎に包まれているプレイヤーやアイテムも多い。



「お前はどうやってあの騎士を倒した?」


ラインハルトが不敵な笑みを浮かべる。


「俺か。 俺はな――」


突如――二人の声を打ち消すように不意に放送が響いた。



「ゲームプレイヤーのみなさんこんばんわ。

ステージクリアーは順調でございますでしょうか。

このゲームは全120階。

夏休みを存分に楽しんでください」


どの階でも変わることのない放送はもはやただの雑音でしかない。


階にいる誰もがこの放送に対しては耳を傾けようとしていない。 否、 もはや意識さえしていないのか。


しかし――


「58階のみなさん――」

という放送が入った瞬間、 この階にいる全員の体に緊張が走った。


耳を済まし、 一字一句も聞き逃さないように耳を澄ます。



各階にはその階だけの放送がある。 それにはその階でしか手に入らないアイテムや限定のクエストの情報、 プレイヤーにとって極めて重要な情報が放送される。


階が進む毎にその重要性は高くなり、 いかにアイテムを手に入れ、 クエストをこなしていくかが今後の攻略の是非に関わってくる。



「――58階『囚われの岩山』にて『聖処女の采配』を入手できます。 効果は一定時間ごとにパーティの体力を回復でございます。 是非この機会に挑戦ください」


そう言って放送は途切れた。



沈黙を破ったのはラインハルトだった。


「――さて、 ケイン、 エナキス、 久々の【アイテムホルダー】だ。 どうする?」


それは『いつ出発するか?』という問に他ならない。


プレイヤーにとってはゲームの攻略が最優先であり、 攻略を少しでも進められる可能性は高めておきたい。


重要アイテムは【アイテムホルダー】によって守られているが決して倒せない相手ではない。


この手を逃す手はことはないだろう。



「明日の――7時だ。 それなら絶対に24時には帰ることができる。

それに下に残っているプレイヤーも大したことはないだろう。 なら俺たちの居場所が取られる、 なんてこともないだろうさ」


「そうね。 見た感じ、 あまり強い人は残っていなかったわ」



最大収容人数が定められている以上、 クエストなどに出かけたプレイヤーの穴は他の誰かが入ることもできる。


そうなれば必然的に出ていったプレイヤーは収容所に入ることができなくなる。


しかしプレイヤー同士の勝負も認められているので、 大半のプレイヤーは強いプレイヤーが次の階へと進んだのを確認してから進むのだ。


しかし、 58階ともなると実力も十分にあるプレイヤーが多く、 たまに他のプレイヤーが出ていった隙に収容所に入り込む輩もいる。



「――分かった。 明日の7時だな。 寝坊したら起こしに来てくれや」



そういうとラインハルトは収容所の奥にある宿泊所に進んでいった。



「ラインハルトか」


ケインは呟いた。


ラインハルトはあの容貌のせいかこのゲーム内では知名度が高い。


しかし知名度の高さに対し、 そのスキルは明かされていない。


ただ単純にパーティを組まないから情報が流れないのだろうか。



ケインはラインハルトとの出会いを思い出す。


この時もアイテムホルダーとの戦いだった。


10階のアイテムホルダーはいまとは比べるまでもないくらい弱かった。


ケインはこのとき爆弾――Precise Bomb――を得ていなかったため、 両手剣を使っていた。


当然、 敵は容易に倒せたわけだがその場にはラインハルトもいた。


一緒に居たのでパーティは組んでいたもののそのときのラインハルトの戦法は遠距離から弓を放ち、 じわじわとHPを削るものだった。


その戦いの帰りに「弓はつまんねぇな」と言っていたので、 今では別の武器を使っているのだろう。


もしかすると彼も【スキル】を手にしているのかも知れない。


ケインの爆弾のように40階からスキルが発現するプレイヤーが増えた。


ラインハルトも例外ではないだろう。



空を見る。 収容所にはあるはずのない星が広がっていた。


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