開始
20××年。 世界には新しい技術が生まれていた。
それはだれもが待ち望んだ仮想現実世界――バーチャルリアリティである。
当然、 視覚聴覚触覚味覚の全ては年を経るごとに正確になり、 今では現実と変わらないといっても過言ではなかった。
その技術は向上と同時に様々な分野に応用され、 料理や家事、 スポーツさえもVR技術の恩恵を受けた。
その中でも最も恩恵を受けたのはやはりゲーム技術だった。
ゲームプレイヤーならば誰もが願うであろう自分自身がゲーム世界に入り込むという渇望。
それはこの技術により間違いなく実現された。
MMORPG――Jailbreak OnlineがVR技術開発されてから3年後に完成された。
世界初のヴァーチャルリアリティRPG。
そのテストプレイヤーとして日本から200名の人間が募集された。
応募は殺到し、 枠は一瞬にして埋まった。
ケイン――山城武もその一人だった。
テスト開始は夏。 それも夏休みど真ん中である。
特に部活にも所属せず怠惰な生活を送っていた。 毎日の趣味はゲームのみである。
とある掲示板からVR技術を使ったオンラインゲームが出る、 という情報は聞いていたのでニュースやネットの情報に目を澄まし、 応募開始と同時に申し込んだ。
結果当選した。
Jailbreak Online。 脱獄――という言葉に何か新しいゲームの期待を膨らませた。
このテストプレイは参加者が一箇所に集められて行われるらしく、 飛行機で現地まで行くことになっていた。 この事実により多くの当選者がプレイ権利を売り出すという自体が発生した。
武は特にすることもないので時間が余っていた。 武の親は特に心配せずに笑顔で送り出してくれた。
ホテルは行き着いた先で探そうと考えている。
所定の場所にはバスが停まっていて、 さらにそれに乗って施設へと着いた。
その建物はゲームの名前とは裏腹に明るい外装に、 広い敷地を余すことなく使った豪華な建物だった。
「でかいな……」
思わず声に出してしまう。
施設に案内されると学校の体育館と同等の広さがあるであろうスペースがあった。
そこにはプレイ人数分の――200の机とVR装置があった。
全員が座るとゲーム制作陣の代表者が入ってきた。
代表――都筑 修一郎のあいさつの後、
「もしホテルを予約していないという人はこの施設でも宿泊できるのでご安心ください」
と言った。
武はホテルのことなどすっかり忘れていたのでとても喜んだ。
「――それではこのゲームをお楽しみください」
VR装置を頭に装着し、 立ち上げる。
自身のキャラクター作成画面が現れ、 武はキャラクターの名前を「ケイン」と入力し、 容姿は現在の自身とあまり変わらないようにした。
決定ボタンを押すと同時に視界が変わった。 テレビの砂嵐のように目の前がノイズに塗れる。
時間が進み、 少しずつ世界が色彩を取り戻していく。 色彩がはっきりしていき、 体の感覚が現れてきた。
唐突に視界をライトが包み、 目を閉じる。
目を開けたその時――眼の前には監獄が広がっていた。
周りには他のテスターが揃っていた。
辺りは壁に覆われ、 さながら監獄を思わせる。
人の顔を確認していくと、 どこからともなく声が響いた。
「テスターのみなさん――」
都筑の声だ。
「このゲームの説明をします」
「Jailbreakつまり脱獄がこのゲームの基盤となります。 全120階でこの世界は構成されていて、 フロアの最深部にいるボスを倒すと次のフロアに進めます――しかしここからが問題です」
フロアの全員が耳を澄ませる。
「毎日夜12時にCPUの看守が収容所内の人数を確認しにきます。 収容所とはあなたたちがいまいる部屋のことで、 各階一部屋あります。 もちろん扉を出れば別の世界が広がっています。
もし看守が人数を確認した時に、 ここ一階の収容所の人数が150人しかいなかったとしましょう。 そのときこの部屋の最大収容人数――つまり収容所に入れる人数が200人から150人になるということです。
ちなみに攻撃を受けてもダメージを受けない安全地帯は各階の収容所だけです」
どうやら24時までには収容所に入っていないといけないらしい。 そして収容所にも入れる限界があり、 そのことにも気を配りながら進めないといけない――ということだ。
「現在はここ一階だけにしか人はいませんが、 もし誰かが2階へと辿り着いた場合、 最初に人が到達した日から10日間無条件で収容所に入ることができます。 そして10日経過時に収容所にいる人数が最大収容人数になるわけです」
「ではがんばってください。 ゲームオーバーの場合は即退場願いますのでご了承ください。 初期装備はサバイバルナイフだけですのでお気をつけて」
そう言って放送は途切れた。
こうしてJailbreak Onlineは開始されたのである。