58F 突入
時刻は23時59分。
ただでさえ暗い監獄が夜の闇に覆われ、 もはや別世界と化していた。
そんな空間に一組の男女が居た。
男は気絶していて、 女に背負われている。 情けない構図にも見えるが、 男の体には無数の切り傷が刻まれており、 先の勝負の鮮烈さを物語っている。
56秒、 57秒、 58秒――
「着いたーー!!」
声を上げたのは女だった。 同時に背負っていた男が床に落ちた。 男は依然気絶している。
「ほんっとギリギリね。 もう少し早く攻略すればよかったわ」
悪態つきながらもエナキスは目の前にメニュー画面を表示させ〈アイテム〉のボタンを押した。
表示されるアイテムの一覧の中から〈神秘の薬〉を発動させた。 HPを半分回復させるアイテムである。
男――ケインの体に光が巻き上がり、 全身を覆っていく。
むくり、 と男の上半身が起き上がった。
「――あぁ……。 気絶してたのか。 悪い」
と言うと周りを見渡した。
「ここは58階の収容所か?」
「そうよ」
収容所――それはこのJailbreak Onlineの最大の特徴の一つである。
否――そもそもこのゲーム自体が巨大な収容所なのかもしれない。
なぜならこの世界にいるプレイヤーはこのゲームに囚われているのだから。