57階 BOSS戦 〈3〉
為す術もなく振り下ろされた剣の一撃を受けたケインは吹き飛んだ。
壁に叩きつけられる。
かろうじて脳天への直撃は避けたものの、 左肩が恐らく壊れた。 直前での体の反転では完全に躱すことは叶わなかった。
回復アイテムを使う余裕は恐らくないだろう。
今の奴はそんな暇さえ与えてくれない。
また目の前に騎士が現れる。
しかし、 視認できたのなら攻撃を防ぐことは可能だ。
左腰のホルダーから初期装備のサバイバルナイフを抜き、 大剣に応戦する。
無論サバイバルナイフ程度で耐えられる攻撃ではないが、 大幅にダメージは減少した。
剣戟によって一瞬の間が生まれた。
「うおおおおおおおおおお!!!」
左手に爆弾を具現化した。
――Brain Drill――
MPを全て使用し放たれる最大の技。
そしてその爆弾を左手で握り、 騎士へと叩きつけた。
部屋が光で満たされる。 硝煙が部屋を覆い、 火薬の匂いが鼻につく。
――やったか?
先の攻撃は諸刃の剣。 Brain Drillはケインの肉体をも損壊させた。
HPは既に20%を切っている。 あと一撃攻撃を食らえば恐らくはやられてしまうだろう。
朦朧となる意識の中でケインは確かに見た。
騎士が立ち上がるその姿を。
ゆっくりと、 ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
――あと少しだったのに……
敵のHPも10%を切っているだろう。
しかしその10%を削る術がない。
悔しくて歯軋りする。
今度こそ、 ケインの肉体は両断された。
そう互いに確信した。
――!?
その驚愕はどちらから生まれたものだったのか。
騎士の剣はケインの脳天の直前で止まっている。
剣をレイピアのような細く鋭い剣が受け止めていた。
「遅れてごめんなさい。 ケイン」
目を擦り、 確認する。
「エナキス!! 遅いぞ!!」
無理やり口元に笑みを作る。
ようやく……来てくれた。
体全体から勝利への確信が湧いてきた。
「敵のHPはあと少しのはずだ。 あの剣技に遠距離攻撃は通用しないと思っていい」
「ケインはかなり苦戦してたってわけだね。 よくそんな相手にここまでダメージ与えたよ。 任せて。 こう見えて私パワータイプだから」
そういうと彼女はレイピアの先を騎士に向けた。 フェンシングを想起させる構えだ。
その姿勢のままエナキスは前進した。 ダッシュで騎士の目の前に駆け寄る。
立ちはだかる騎士を前にし、 彼女はスキルを発動した。
――Red Destiny――
突きが繰り出される。 もはや肉眼では確認できないほどの妙技。
一撃一撃の威力は小さくとも確実に騎士の体力を奪っていく。
「ハアアアアァァァ!!」
止まることを知らない連続技。
「ギアァァアアアア!!」
騎士の咆哮。 再び剣を振りかぶる。 しかし女戦士の猛攻は止まらず、 その剣技はさらにHPを奪っていく。
振りかぶり、 騎士が構えを取る。 構えている状況では攻撃を受けても構えは崩れない。 まさに一撃必殺のための構えである。
敵の腕からは妖気を思わせる煙が渦巻き、 その相貌はさらに強力になっている。
騎士の腕に力が入った瞬間――
騎士の体全体が爆発した。
――Wormed――
エナキスが持ちこたえている間にスキルを発動させるためのMPを〈パワーフォース〉で回復させたのだ。
殆どHPの残っていない状態でのスキル発動はかなり体に響く。
「へへ……ようやく倒したな」
57F CLEAR
その文字が現れたのを確認するとケインは気を失った。