第九章:永遠と黄昏
更新がかなり遅れましたけど、投稿します。
次がエピローグの予定です。
私は自分の腹から溢れる赤い液体を見た。
温かいけど、痛い感覚が全身を走る。
「あら?私を貫く筈だったのに自分を撃ったの?」
ガブリエル・・・・・・
私の前で至高天の光を構える女。
旧友にして・・・同僚にして・・・怨敵にして・・・・・・一人の男を互いに愛し合った恋敵。
熾天使ラファエル。
悪霊退治の異名を取る彼女だけど、今は彼女自身が悪霊よ。
狂気の愛に取り付かれた憐れな女。
その女に引導を渡す筈だったのに・・・・・・どうして私から血が出ているの?
「・・・何を、したの?」
血を流す箇所を抑えながら尋ねる。
「彼を愛する私に神が力を貸してくれたのよ」
「答えになってないわ」
傷口に治癒魔法を施しながら、私は問いを強くする。
「まぁ、冥途の土産に教えて上げるわ」
既に勝ち誇った笑みを浮かべるラファエルは説明を始める。
「私の仕事は悪霊を退治する事。時には組み敷かれる事もあるわ」
心臓目掛けて剣を突き立てられる事もある。
「そこで考えたの」
自分を攻撃する力を相手に返せないか?
「試行錯誤の末に編み出したわ」
相手に力を返す技を・・・・・・・・・
「だったら、どうしてやらなかったの?」
最初からやれば決着ついたのに。
「まだ私の中に貴方を親友だ、と思う部分があったからよ」
ラファエルは哀しそうに言うが、切っ先は私に向けられている。
「そんな事を言っても、切っ先を向けられちゃ感涙しないわ」
「感涙しなくて良いわ。どうせ死ぬんだから」
「お生憎様。私、好きな男を残して死なないの」
死ぬなら彼も一緒。
出来ないなら彼を殺すか、彼の後を追うだけ。
それ以外は一切認めない。
「諦めなさい」
ラファエルは私に切っ先を再び向けて宣言した。
「彼---飛天は私の・・・・・・私だけの愛しくて恋しい男よ」
「彼は望んでいないわ」
私もあんたも小娘も彼は望んでいない。
「誰も彼の唯一の女性にはなれないわ。でも、彼は傍に居る事を許してくれたわ」
私だけを・・・・・・
そんな彼を・・・・・あの雨が降る黄昏れ時に涙する彼の永遠を・・・・・・
あんたと小娘は奪い取ろうとする。
あの彼を!
この私から!!
「あの彼を!!あの黄昏を!!」
・・・・・・彼の永遠と黄昏は私が護る。
「あんたみたいな売女が、彼の永遠と黄昏を奪おうだなんて・・・・・思い上がるんじゃないわよ!!」
彼の永遠も黄昏も渡さない!!
「なら、今ここで死になさい」
冷たい口調で言い、ラファエルが至高天の光を振り上げた。
それを私は避けて距離を開ける。
「出来る事なら使いたくなかったけど・・・・・・」
仕方ない。
スリルを味わうのは止めたわ。
この場で永年の因縁に終止符、という弾丸を撃ち込んで上げる。
パイソンを仕舞い、私は気を高めた。
もう・・・・・・あれは使いたくない。
でも今一度・・・使いましょう。
一度は奪われた彼の永遠と黄昏を護る為に!!
「・・・・・・それは」
ラファエルは私の手に握られた物を見て、重い空気から自分が生きられる空気を吸った。
「私の武器を見るのは久し振りよね?」
私の手に握られた物---槍を見て、ラファエルは震えるが、私には関係ない。
「何も無い所から産み出して、全てを無に帰す槍」
名は“至上の幕引き”。
「もう天界を出た時点で使う気は無かったわ」
何故なら・・・・・・
「貴方が彼を刺し、再び私が・・・・・・」
「止めて!!」
ラファエルは甲高い声で遮るが、私は止めない。
この槍で彼を刺し、貴方の剣で右眼を抉り出し、小娘の大鎌で彼を斬った。
「貴方は私まで罪を擦り付けようとした」
「違う!貴方が・・・貴方がいけないのよ!!」
ラファエルは髪を振り乱しながら、甲高い声で否定した。
「貴方が彼の愛を私から奪おうとしたのよ!私が彼を最初に見て、手を差し伸べた」
それなのに・・・・・・
「後から来た貴方に彼は心を向けた!私以外の女と交わり、子供まで儲けたのよ!!」
赦せない・・・・・・
「彼は未来永劫・・・私の男だったのに!!」
「そんなのは言い訳よ。私を陥れ、彼の人生をメチャクチャにした罪は重くてよ?」
至上の幕引きを私は構えて言った。
「さぁ・・・空しく滅びなさい」
ラファエル・・・・・・
「私は・・・・・・!!」
最後まで言わせない。
貴方は死ぬのよ。
私が・・・私の・・・私の手で・・・私の槍で・・・絞めて、刺して、タップリと時間を掛けて殺して上げる。
至上の幕引きが、空を切り裂きラファエルを襲う。
尖端を至高天の光が受け止めて、柄を撫でるように走ろうとした。
槍などの長物に勝つには相手の懐に飛び込む。
だけど、それを許すほど私は甘ちゃんではない。
後ろの柄でラファエルを弾き、懐から遠ざけた。
ある程度の距離を保ち尖端で攻撃する。
ラファエルは防戦一方だ。
「どうしたの?」
私を殺すんじゃなかったの?
「くっ・・・・・・!!」
ラファエル---売女は舌打ちにも似た声を出す。
でも、私の懐には入れないでいた。
逆に言えば、私の方も売女に決定打を与えられない。
自分が怒っている、と理解している。
同時に焦っていた。
これを使っている・・・則ち飛天にも影響を与えている。
私が力を与えたから比例して、彼にも影響するのよ。
よく見れば、売女は笑っていた。
「やっぱり貴方って性格が悪いわね」
吐き気を我慢して、私は言う。
最初から予定してたのね?
私を追い詰めて力を使わせる事を・・・・・・
しかし、売女が浮かべた笑みは違ったようだ。
私を・・・私の後方を見て青ざめた。
何よ・・・違うの?
冷静と憤怒が入り乱れて混乱するが、背後から出て来た手で気が付いた。
「・・・大丈夫か?」
嗚呼・・・・・・
「ちょっと痛いの」
治癒魔法を使って痛みなど当に無い。
だけど、見せ付けるように私は嘘を吐いた。
彼は私の横に立ち、眼帯を取り付けた右眼で私を見る。
「・・・今日は引き上げるぞ」
えぇ、そうしましょう。
素直に私は頷き、至上の幕引きを消し去る。
「ひ、飛天、わ、私・・・・・・・・・」
ラファエルは声を震わせるが、彼は容赦しない。
「・・・・・・いつか貴様の首を頂く。しかし、今日の所は連れの女を看病するから、見逃してやるよ」
飛天は私の肩に手を回してくれた。
体格差があるけど、構わないわ。
ゆっくりと彼と私は歩き始める。
嗚呼、なんて佳い月なの?
こんな月の出る晩に彼と帰れるなんて・・・・・・・
「ま、まっ、て・・・待って、飛天!お願いだから待って!!」
ラファエルは既に背を向けて歩き出す飛天に甲高い声で、必死に呼び掛けてくる。
でも、彼は振り向かない。
声を無視するのは当たり前だった。
「お願いっ。お願いだから、私を置いて行かないで!お願いだから、そんな女と一緒に行かないで!!」
差し伸ばした手も飛天は無視する。
それでもラファエルは叫び続けた。
「私は貴方を愛しているの!他の誰にも渡したくないの!ねぇ、だから・・・・お願いだから、私の傍に・・・・傍に居て!!飛天!!」
最後の願いみたいにラファエルは心の底から叫ぶも・・・・・彼は耳を傾けてくれない。
顔すら向けてくれない。
ただ・・・・血の臭いを残して、私に肩を貸した状態で歩き去ろうとする。
膝をついて泣き出すラファエルとは対照的に、私は彼の胸に甘えていた。
でも、ラファエルに念を送る。
『悔しい?悔しいでしょうね。だけど、これが現実。貴方も小娘も飛天は振り向かない』
何故なら・・・・・・・・・
『私の男だからよ。私だけが彼の永遠と黄昏を独占するの』
「ガブリエルぅぅぅぅぅぅぅ!!」
ラファエルが凄まじい声で私の名を叫ぶが、その時には彼の車に乗った時だから、然して意味は成さなかった。