第八章:夜のダンス
教会の上である屋根。
満月が良い具合に昇っており、最高の夜と言っても過言ではない。
こんな時は男女が愛し合う物。
でも、私の場合は不粋な事に仕事中なのよね。
おまけに相手はプッツンした状態で手に負えない。
まぁ・・・そこまで追い詰めたのは半分、私に理由があるけどね。
で、その相手---大天使ラファエルは・・・・・・・・・・・・
「死になさい・・・死になさい・・・死になさい・・・死になさい・・・・・・・・」
死になさい、死になさい、死になさい、死になさい、死になさい、死になさい。
死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね。
死を・・・・彼奴に・・・・死を・・・・彼奴に・・・・死を・・・・・・・・
あの女に死を!!
「完全にイカレタ、わね」
私は十字架に背中を預けて、44オートマグピストル---.44AMP弾を避けている。
だけど、馬鹿みたいに貫通するのよね。
まぁ、44マグナム弾より威力は上だから当たり前だけど。
私の357マグナム弾より強力だが、銃本体は未熟品と言える。
そろそろジャムを起こしても良い筈・・・・・・・・・・・
「死になさい、この売女が!!」
ラファエルは十字架に隠れる私に撃ちながら近付いて来る。
既に弾は無い。
だが、撃てるのは彼女の気---聖気で撃っているからに他ならない。
「売女?それは貴方の事でしょ」
私は横に跳んでパイソンの引き金を立て続けに引いた。
357マグナム弾が連続で2発、発射されてラファエルの撃った44AMP弾に当たる。
双方の弾は空中で壊れて弾け飛ぶ。
しかし、私は引き金を引き続ける。
ラファエルに撃たせる隙を与えない。
冷静なんだけど・・・・やっぱり、何処かで怒っているのね。
自分の事なのに私は酷く冷めていた。
ラファエルは私を売女、と罵った。
でも、本当はラファエルが言われる言葉で、私に言われる筋合いは無い。
何故か?
彼以外に抱かれないからよ。
彼以外の男には指一本、触れさせない。
まぁ、自分で自分を慰める事はあるけど。
それ位は許してよね?
神は「産めよ、増やせよ」とか言っているけど、女の身から言わせれば男の欲望を受け止めるなんて御免被る。
もっともラファエルに到っては違うけど。
「貴方、飛天が構ってくれないから他の男に抱かれているんでしょ?」
「!?」
ラファエルの動きが停まる。
私の撃った357マグナム弾が肩を抉り、大量の血が月夜の屋根に飛び散る。
痛い筈だが、ラファエルは悲鳴も上げない。
身体も動かさない。
「私が知らないとでも思った?」
そんな彼女の様子を見て、私は嗜虐的な笑みを浮かべて言い続ける。
「貴方の淫乱振りは天界中の噂よ」
日に5人は男を変える。
しかも、容姿は黒髪に金眼。
身長は190cm以上が望ましいけど、そんな巨体は多くない。
だから、妥協して180前後なら良し。
ついでに言えば、耐久性も良ければ良し。
誰を連想するのか?
そんな下世話な質問は答えられないでしょうね。
いえ、皆は知っているのよ。
ラファエルは悪魔の男に惹かれている。
だが、相手にされないから似た容姿の天使を毎夜の如く相手にしている。
「で、デタラメよ!!」
ラファエルは飛び続ける血を止めようともせず、私の言葉を否定する。
「どうして?貴方が愛している男は飛天じゃないの?」
「そ、それは・・・・・・・・・」
「違うの?まぁ、良いけど。貴方が幾ら望んでも飛天は貴方を抱かないんだから」
抱いてくれるのは私だけ。
ベッドの上で彼の腕を枕に眠れる女は私だけ。
貴方には永遠に手に入れる事が出来ない夢でしかない。
「そんな事はさせないわ!!」
いきなりラファエルの気が強くなった。
煽り過ぎたかしら?
「彼は私の男。私“だけ”の愛しき男よ。誰にも渡さない!誰にも!誰にも!誰にもよ!!」
不味い・・・・・・・
ラファエルの気がドンドン強くなり出した。
このままだと私も本気を出すしかない。
でも、それをやると反動、と言えば良いかしら?
飛天にも影響が来る。
それは避けたい所だから・・・・・・・・・
「やるしかないわね」
力を抑えて戦うしかない。
不思議と恐怖は感じない。
厄介、とは思うけど。
でも、それだけで私にとっては面白い展開になり出した。
こんな事を考えるから破綻者とか言われるのよね。
まぁ、それは飛天も同じ事だから良いわ。
「死になさい!!」
ラファエルはAMTマグナムを捨てると、何処からともなく一振りの剣を取り出した。
黄金に輝く剣は・・・・・・・・・
「・・・“至高天の光”」
彼女が悪魔退治で名を馳せた時には必ず、あれがある。
至高天の光---別名を“悪魔斬り”と言う両刃の剣。
悪魔斬り、という別名は悪魔たちが名付けた。
自分達の同族を何百、何千、何万と斬り殺した剣。
そして、それを扱うラファエルの渾名は・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・“至高の狩人”」
七つの大罪「色欲」を司る大悪魔アスモデウス。
アスモデウスは遠いエジプトまで逃げたが、ラファエルは追い掛けて至高天の光で彼を斬った。
彼の血はナイル河に流れて、エジプトを襲う災いの一つに数えられた経緯がある。
それ以外でも名のある悪魔を斬った剣、そしてそれを扱う天使。
この2つが合わさりラファエルは悪魔退治の名が広まっているの。
あれを出す時点で、もう完全にイッテいる。
ふふふふふ・・・・・・・・・・・
「そうこなっくちゃ」
このゾクゾクするスリル・・・・“濡れちゃう”わね。
「ガブリエル・・・彼は私の男よ。今、引けば見逃して上げるわ」
ラファエルは至高天の光を私に向けた。
「嫌よ。彼を渡す位なら殺して、私も自殺した方がマシよ」
これに嘘は無い。
「そう・・・・それなら死になさい」
「!?」
ラファエルが突然、姿を消した。
違う・・・・一瞬で動いたのよ。
「死になさい!!」
頭上に来る寒気・・・・・・・
辛うじて避けた私は間髪いれず357マグナム弾を、ラファエルにお見舞いした。
しかし、それは見事に真っ二つにされた。
「こんな物で、私を殺せると思うの?」
ラファエルは両手で至高天の光を握り締めながら、私を嘲笑ってきた。
「出来るわよ。天使だって完璧じゃないもの」
だから、あんな事をしたんだ。
もし、天使が完璧なら・・・・他人の人生を滅茶苦茶になどしない。
「だったら、貴方も完璧じゃないわね。何せ・・・これから死ぬんだから」
「その言葉、そのまま返すわ」
私は再びパイソンの銃口をラファエルに向けた。
「それなら死んで後悔しなさいっ」
ラファエルは左袈裟掛けに、剣を振り下ろした。
それを私は避けたが、両刃だから振り下ろしても、そのまま上げれば斬れる。
「くっ・・・・・・」
髪が数本ほど切られた。
ラファエルの攻撃は続く。
再び剣を振り下ろして、今度は突きを繰り出して来た。
刃を水平にした突きで、これも左右に避けた所で横に動かせば斬れる。
厄介な物よ。
避け切れず私はパイソンで剣先を防いだ。
「どうしたの?私を殺すんじゃなかったの?!」
連続攻撃の手を緩めずラファエルは私を追い詰める。
「えぇ、殺すわよ・・・・・・!!」
やられっ放しなのは私のプライドが許さない。
隙を見てラファエルの懐へ飛び込み・・・・右肩に撃った。
「ぐあぁぁぁぁ!!」
ラファエルは後ろへ飛ぶ形で、倒れ込んだ。
右肩から血が溢れているが、剣は手放していない。
それでこそ悪魔退治の異名を持つ天使ね。
でも・・・・・・・・・
「右肩をやられたから、終わりよね?」
後一発ある。
その一発で、ラファエルを仕留める。
私は撃鉄を起こして銃口を額に向けた。
「これで終わりね。じゃあね、ラファエル・・・・・・・・・・・」
グッ・・・・・・・・
引き金を引いた。
弾が飛び出して、ラファエルを撃ち抜く筈だった・・・・・・・・・
何故か、知らないけど私の腹から血が・・・・溢れ出ていた。