第五章:イギリスへ
更新がかなり遅れました。
やはり、沢山連載するのは良くない、と思います。(汗)
とは言え、書きたい物が山ほどあるから仕方ない、と開き直る自分も居ますけど。
私と飛天は船に揺られながら私の住み家である長靴の形をした島---イギリスへと向かっていた。
あれから男の方は始末を着けたのは訊かなくても分かるでしょ?
豚のように、ひぃひぃ泣き喚いて何度も神と天使に助けを求めたが、その度に誰も助けてくれないと改めて思い知らされて死んで行った。
でも、飛天の方よりはまだマシだ。
マシというより優しいと言った方が正しいかもしれないわね。
そして依頼人である母親に「先ず一人は始末した」と伝えた。
母親は何も言わなかったが、ただ一粒だけ涙を零し礼を言ってきた。
「ありがとうございます・・・・・・・・」
しかし、飛天は無愛想に言い返した。
『まだ一人残っている。それが終わるまで礼は言うな』
何より自分達の行っている事が決して良い事ではないと彼は知っているから礼を言われるなど嬉しくないのよ。
私達に論理なんて無い。
それでも礼を言われる程の事はしていないという事くらいは判っている。
寧ろ飛天にとっては腹立たしい。
彼から言わせれば一時とは言え赤い眼を出した。
枷をこう簡単に外しては駄目だと彼は思っている。
だけど、依頼人の事を考えると仕方が無いと判断したのでしょうね・・・・・・
そんな彼をふと見る。
彼は船の手先に身を寄せて煙草を吸っている。
それだけで酷く画になるから牝共の視線は一人占め。
こんな時でなければ即座に押し倒したい所だ。
などと思っていると彼の足元にボールが転がって来た。
彼はそれを無造作に取り上げて視線を送る。
そこには一人の少年が立っていた。
どうやら彼のボールらしいが、飛天の姿を見て怖気づいている。
彼は小さく笑いながら彼に近付くと片膝を着いた。
「船上でボール遊びは危険だ。止めておきなさい」
「でも、暇なんだもん」
彼の優しい言葉に坊やは少し怒った口調で言い返した。
「それなら本を読みなさい。船に揺られながら本を読むのは酔いこそするが、慣れると楽しいんだよ」
「そうなの?」
「あぁ。特に勧め品は海洋物だ」
「海洋物って言うとネモ船長が出ている“深海二万海里”とか?」
「そうだ。船の上で海洋物を読めば潮風が直接肌に来て自分がさも物語に立っていると感じる」
それが船上で本を読む---特に海洋物なら絶品と飛天は告げた。
「だけど、本を読むと眠くなるんだ」
「それならそれで仕方が無い事さ。だけど、ボール遊びして万が一船から落ちるよりは良いだろ?」
少しだけ脅しとも取れる言葉を飛天は言ったが、幼い子には効果てき面だった。
「おじちゃんの言う通り本を読むよ」
「そうしなさい。本を読めばそれだけ君の知識は深まる。だが、友達と交流を深める事も大事だ」
その両方を成し遂げれば良い大人になれると飛天は言い、子供にボールを返した。
「ありがとう。おじちゃん」
坊やはボールを受け取り船舶の中へと消えて行った。
「子供には優しいのね」
僅かに嫉妬を込めて私は言った。
私には何時も冷たい態度と無愛想な鉄仮面しか見せないのに・・・・・・・
「子供は純粋だ・・・だから、簡単に道を踏み外す」
子供という生き物は極めて純粋だ。
それこそあれ位の歳なら善悪の判別がまだ出来るか出来ないか位。
それ位の子なら悪にも善にもなる。
あの坊やはまだ幼い。
だから船の上でボール遊びは駄目だとまだハッキリと区別していない。
そのため飛天は優しく諭したんだ。
その口ぶりから察するに何か遭ったんだと自ずと予想できた私は訊ねた。
「・・・過去に子供と何か遭ったの?」
「むかし戦場に居た時だ・・・子供に撃たれた」
「子供兵に撃たれたの?」
子供兵とは“少年兵”の事よ。
紛争には必ずと言って良い程に彼等は顔が出る。
大抵だけど、村を襲い両親を殺して連れ去るの。
そこで武器を持たせて戦わせるか地雷原のある場所を歩かせるか、若しくは性欲の捌け口にするか。
こんな糞みたいな事をやるのが大人だと思うと情けなくなるわ。
あの男もまた幼い頃に家庭環境が崩壊していたからああなったかもしれない。
それを考えると同情できる余地はあるかもしれないが、やった事の報いを受けるのは世の常。
これには大人も子供も関係ない。
もう一人の罪人---あの女にもそれを受けさせる積りだ。
「・・・女の居所は分かっている」
飛天は話を打ち切るように話題を変えてきた。
「何処?」
「お前の直ぐ近くに居る」
私の直ぐ近く?
「もしかして内の近所?」
「あぁ。木を隠すなら森に隠せを地で行っているな」
飛天は皮肉家に笑ったが、私から言わせれば笑いごとじゃない。
私の近くに住んでいたと言う事は、私が知っていたかもしれない。
そして依頼人が来た時に見ていたのかもしれない。
「・・・胸糞悪いわ」
飛天の言葉を借りているけど私の住んでいる所に罪人も住んでいると考えただけで胸糞悪い。
それ所か罪人と同じ空気を吸っていたかと思うだけでも腹立たしい。
「しかし、厄介だ」
「厄介?」
「どうも最近は・・・教会に通っているらしい」
「教会に?罪の深さに懺悔でもするの?」
「お前ならそうするのか?」
逆に質問されたが、私は鼻で嗤った。
「まさか。犯した事を後悔する位なら最初からしなければ良いのよ」
じゃあ何で教会に行くのか?という話になる。
「・・・淫売が居るんだよ」
どういう理由かは知らないし知りたくもない。
だが、居るのよ・・・教会に。
飛天は名を出すのも嫌な顔をした。
「で、罪人は淫売に助けを求めたの?」
「・・・あぁ。どんな理由にしろ・・・邪魔だな」
「そうね」
私は出来るだけ彼を刺激しないように努めながら早くイギリスに着く事を願うしかできなかった。
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「・・・そう、貴方は罪を犯したの」
私は懺悔室で両手を組んで、必死に罪を告白する女性を見る。
「私は、夫に毎日のように殴られました。でも、夫を愛しているんです」
「それは良い事よ。夫婦とは互いに愛し合う事で、信頼関係を築くのだから」
神は人間に教えた。
人は愛し合う事で、互いを理解し合う。
それなのに、と私は疑問に思う事がある。
互いを理解し合うのなら・・・どうして、人は争う事を止めないのか?
神が違う、思想が違う、肌の色が違う、国が違う・・・・・・・・・・
数えたら切りが無い。
それだけ多くの他愛ない理由から、憎しみ合い殺し合う。
どうして?
神の教えは間違いなの?
違う。
そう思いたい。
だって、神の教えが間違っていたら・・・・・・・・・・
「彼は、私を殺すもの」
口に出して言った。
彼を私は愛している。
この身を捧げて全身全霊を込めて愛して上げたい。
それなのに、彼は私を愛してくれない。
憎んでいる・・・・・・・・
何故なら私が彼の絶対にして唯一の“女神”を奪ったから。
許せなかった。
あんな身体を売る女に、彼を取られる事が・・・・・・・・・
私の気持ちを応えてくれなかった彼が・・・・・・・・・・・
だから、奪った。
彼を忌まわしき“魔女の呪縛”から解放する為に。
きっと彼は怨む。
それは解かっていたが、理解し合える。
神は言った。
それなら出来る。
私は、そう思い彼に理解を求めた。
でも、彼は未だに私を理解してくれない。
私の想いを・・・・受け止めてくれない。
どうして?
どうしてなの?
私はこんなにも貴方を愛しているのに・・・・・・・・・・・
「貴方を、どうしたら憎しみから解放できるのかしら?」
憎しみの鎖を断ち切って、私と共に永遠の楽園で生きましょう。
飛天・・・・・・・・・・
何れ・・・・来るであろう愛しき男の名を私は口にしながら、未だに懺悔をして私に助けを乞う“子羊”と言う名の女を冷めた眼で見た。