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プロローグ:銀の弾丸

数年前に書いた非情な天使の改稿編です。


傭兵の国盗り物語も書いていますが、今の時点は書き直しや誤字脱字を探しているのでもう少し時間がかかりそうです。


皆様には、ご迷惑を掛けて申し訳ありません。


霧の都と謳われるイギリスの首都ロンドン。


昼は観光客などで賑わっているが夜のロンドンは犯罪者などが蔓延るヨーロッパの暗黒街。


そんな危険な街で私以外は誰も居ない静かなクラシックバーでモーツァルトの鎮魂歌------“安息を”を聴きながらバーテンが出した“ブラッディ・マリー”を飲んでいた。


ブラッディ・マリーまたの名をブラッディ・メアリー。


トマト・ジュース------血を連想させる真紅の色から、16世紀にイングランドでプロテスタント(新興宗教)を次々と殺したため「血まみれのメアリー」(ブラッディ・メアリー)と恐れられた女王、メアリー・チューダー(メアリー1世)が名前のモデルとされている。


味は自分好みに調節可能で私の場合は血が凍る程---冷血な程に冷たい味が好み。


赤いのに冷たい味が何ともミステリアスな感じで好きなのよ。


その冷血な酒を飲み続けながら安息を、を聴き続ける。


彼の天才作曲家である“ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト”が死ぬ直前に書いたが途中で没し、弟子が補筆して完成された曲。


死ぬ直前まで書き続けただけあって、まるで自分自身に捧げるかのような曲。


普段音楽は聴かないが、これは聴いても平気。


最後まで聴き終えた私は既に半分になったブラッディ・マリーを牛革のコースターの上に置いた。


そして左手に嵌めた腕時計------オメガのスピードマスターに視線を落とした。


時刻は・・・午前零時。


ちょうど彼と待ち合わせの時間になった。


腕時計から眼を離すのを合図にしたようにタイミング良くドアが開いて一人の男性が中に入って来た。


腰まで伸びた黒髪を真後ろで一本に纏めている。


黒一色の服はまるで誰かに「愛を捧げている」ように見えてしまう。


それが私には悲しいと同時に嫉妬という炎が心の中で燃え上がるのを感じた。


喪服のように黒い服に身を包んだ男性は20代後半でアジア系の肌色をしていたが、顔立ちはロシア系の色が強い。


整った顔立ちと月のように神秘的な金色の瞳・・・・夜の王という名が相応しい。


黒のソフト帽と黒のトレンチコートが眼に入ったが何より目立つのは右の黒い眼帯が視線を釘付けにする。


眼帯を付けている事もあり一目で堅気ではないと判るが、その他にも身体から放たれる張り詰められた気と硝煙とオイルの臭いでも堅気ではないと判る。


でも、誰もが彼の放つ独特の雰囲気に飲まれている。


・・・・・彼だ。


彼は椅子に座っていた私を一瞥すると隣に座りバーテンにウィスキーをベースにした“マンハッタン”を頼んだ。


カクテルの女王という異名を持つこのカクテルはニューヨークにあるマンハッタン島に落ちる夕日をイメージして作られたと言われている。


バーテンダーがマンハッタンを作る間、彼は懐に左手を入れて一箱取り出した。


黒い箱で中央には人型が描かれている。


彼の愛煙草------“夜歩く”だ。


文学的な名前だが何処の煙草店にも置いていない。


彼だけが吸う特別な煙草だ。


箱を開けて1本だけ取り出すと口に銜えてジッポライターで火を点けた。


その仕草を私は瞬きもせずに見入った。


私以外の女達も彼に見入っているが、彼は「視線に入らない」という感じだった。


バーテンダーが出したマンハッタンを受け取る手は手袋で隠れていたが隙間から見える生傷に戦慄さえ覚えてしまう。


しかし、戦慄と同時に心が躍るのだ。


こんな男とこれから私は仕事をするのだという事にどうしようもないスリルを感じてしまう。


私は彼の隣に席を移動すると小さく囁いた。


「久し振りね。飛天」


男、飛天は眉ひとつ動かさずに低い声で私の名前を呼んだ。


「・・・・久し振りだな。ガブリエル」


彼に名前を呼ばれただけで心がウキウキしてきた。


さも初めての恋人とデートに行く生娘みたいに・・・・・・・・


「何か用か?」


感情の無い声で私に質問してくる飛天に私は苦笑した。


「相変わらず愛想の無い男ね」


彼を笑わせようとしたが、無表情だった。


それ所か腰を上げた。


「・・・・要件が無いなら帰る」


出されたマンハッタンに手も出さずに席を立とうとする彼を私は内心では少し焦ったが表情には出さずに止めた。


大変な事を忘れていた。


今日は、六月四日・・・・・・・飛天にとっては忘れたくても忘れられない出来事が起きた日だった。


そんな日に会う約束をした自分の軽薄さを呪った。


だが、そんな表情は微塵も出さずに私はこう言った。


「そんなに急かさないで」


私はブラッディ・マリーを飲み干すとバーテンダーに新しいカクテルを頼んだ。


バーテンは直ぐに準備に取り掛かって数分後に出されたカクテルを見て彼は少し表情を歪めた。


「・・・・シルバー・ブレッド」


シルバー・ブレッド------銀の弾。


在りとあらゆる化物を殺す事が出来ると言われる銀の弾丸から名を取ったカクテル。


私と彼だけにある秘密の暗号。


「・・・・・・・・・・」


彼は無言で席に戻ると出されたマンハッタンには手も付けずシルバー・ブレットに手を出した。


「・・・・依頼内容は?」


シルバー・ブレットを飲みながら静かに訊いてくる声は私を芯から根こそぎ骨抜きにするような声だった。


「ちょっとした町の“ゴミ掃除”よ」


嬉しくて堪らないのを必死に抑えて私は囁いた。


「・・・・分かった」


飛天はシルバー・ブレットを一気に飲むと席を立った。


「場所と時間は後で連絡してくれ」


要件を言うと飛天は金を払い出て行ってしまった。


私は懐から自分の愛煙草------ゴロワーズを取り出して銜えるとBARにあるマッチで火を点けた。


一息煙を吐いてから飛天の頼んだマンハッタンを飲んで店を後にした。

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虫も眠るとされる深夜2時。


誰も居ない霧が深い夜のロンドン。


その深い霧が出ている夜のロンドンでは屋根伝いに動く獣が一匹いた。


私は静かに狙いを定めると銃の引き金を引いた。


ドォン!!


大きな音が街中に響いて獣が屋根から落ちた。


しかし、空中で体勢を整えると見事に地面に着地して私を黄色の瞳で睨んで来た。


「・・・・くそ、天使風情が・・・・・・」


「その汚い口を閉じてくれない?息が詰まるんだけど」


私は余裕の態度で獣に言った。


獣の身体からは青白い液体が無数に出ていた。


私が撃った銀の弾丸の効力で血が止まらないのよ。


「・・・・・・・・」


獣は私に飛び掛かって来た。


しかし、私は余裕の表情で銃を仕舞うと瞳を閉じた。


「後は頼んだわ。・・・・・飛天」


獣の爪が私の額に一歩という所で獣の動きが止まって額から血しぶきを上げて倒れた。


獣は私の足元で息絶えて口から血泡を噴き出して息絶えた。


「・・・・良い腕ね」


私は後方でライフルを構えている飛天に微笑んだ。


距離はざっと軽く見ても800mはあるが、私には間近に見える距離だ。


「・・・・・・・・・」


飛天は何も言わずにライフルを仕舞うと姿を消した。


残った私はゴロワーズに火を点けて少し留まっていたが倒れた獣を見つめた。


皆が起きる朝方の頃には灰になって消える事だろう。


異形の者の末路など碌なものじゃない。


それは天使である私も同じ事でもあり悪魔である飛天も変わらない。


無論・・・あの女もまたこんな無様な死を迎える事だろう。


何れ・・・ね。


私は皮肉気に笑ってその場を立ち去った。


その夜は6月4日という彼にとっても私にとっても余りおめでたい日ではなかった。


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