第5話 大切な役目
「ええ~い、控えおろう! この紋章が目に入らぬか~」
「はは~」
うう~ん。気持ちいいわねー。
はじめは偉そうにしていた人が急に態度を変えて土下座するのよ。
こんな快感ないわ~。
でもなんか変なのよね? 何かが間違っているような?
もちろん道徳的な意味じゃないわよ。私を見てひれ伏すのは当然のことだもの。
なんか閉まらないのよ?
日本に研修生として行ったときに見たテレビ番組を思い出すのよ。
私が大好きだったあの番組。
何だったかしら?
そうだわ。暴れん坊副将軍漫遊記よ!
その番組では確か。おじいさんが、
「もういいでしょう格さん」
「ええい、控えおろう。こちらにおわすお方をどなたと心得る」
「マリー。ちょっとセリフが具体的すぎないか?」
「それがどうしたのよ?」
「いやその。著作権とか‥‥」
「うるさいわね! プリンセスの行動に注文を付けるんじゃないわよ」
「しかし‥‥」
「こんな超マイナーな小説、読んでいる人なんかいないんだから」
えっほえっほえっほえっほほい。
「マリー、どうしたんだ? 急に変な踊りを踊り出して」
「体が勝手に動くのよ。ちょっと見ないで四朗。恥ずかしいじゃない」
えっほえっほえっほほい。
「作者を怒らせるからそうなるのよ。本当バカね?」
小百合! 覚えてなさいよ。
そうか思い出したわ!
私が自ら王家の紋章を見せているから閉まらないのよ。
私が中央に立って横に控える家来が紋章を見せればいいんだわ。
「小百合、今日から重大な役目を授けるわ」
「何よ?」
「私の横に控えて王家の紋章を見せなさい」
「嫌だわ。私があなたの家来みたいじゃない」
「家来なのよ!」
まったく王というシステムが分かってないわね?
このパーティーで私と対等な立場でいられるのは四朗だけなのよ。
だって将来私の旦那様になる人だし。
そんなことを考えている場合じゃないわね。」
「仕方ないわね。じゃあ四朗が」
「その役、芽依がやる!」
「え? ダメよ芽依じゃ」
「どうしてよ?」
「一番、似合わないでしょ!」
芽依って確か小学生よね?
こんな小さな女の子が紋章を出しても説得力に欠けるに決まってるわ。
「マリーって人権意識が低いんだ?」
小百合がジト目で私を見ている。
何よこの蔑むような眼は?
「積極的にやりたがってる子に見た目だけでやらせないなんて最低ね?」
「な‥‥」
「芽依は背が低いからやらせてもらえないんだ」
「そういうわけじゃ」
「かわいそうな芽依ちゃん。こんなのが王様になったらこの国も終わりね? きっと走れメロスに出てくるディオニス王レベルの暴君になるわよ?」
「わかったわよ! 芽依にさせればいいんでしょ?」
ん? ディオニス王って誰よ?
「小百合、ディオニスなんて名前よく覚えてたな?」
「中学校の国語で覚えている人物といえばディオニスとフィロストラトスでしょう?」
「フィロストラトス? 誰だそれ?」
「四朗君は覚えてないの? 走れメロスの親友セリヌンティウスの弟子よ」
「覚えてるか!」
この人たち何を言ってるのよ? さっぱりわからないわ。
「小百合さん、それは通すぎるよ。普通に覚えてるのはエーミールだよ」
「あなたたちいい加減にしなさいよね? 何の話で盛り上がってるのよ。ストーリーの進行に何の関係もないじゃない」
そして芽依のデビュー戦がやって来た。
「もうこれくらいでいいわ。芽依、見せて御上げなさい」
「お控えください。この紋章が見えないのですか?」
「はあ?」
家来たちがあっけにとられてるわね?
「どうしたのお嬢ちゃん?」
家来の一人がかがんで芽依の顔を見ているわ:
「よしよし」
頭を撫で始めたわね。
「芽依、そんなに小さくないよ!」
はやり芽依では役不足だったわね。
「小百合、あなたがやりなさいよ」
「もう仕方ないわね」
小百合は芽依から紋章を受け取りと、それを右手で握り突き出した。
「ええい、控えおろう。この紋所が目に入らぬか!」
紋所?
「この私こそ黒の国を治めるプリンセスなるぞ。頭が高い控えおろう」
「はは~!」
「違うでしょ! 私がプリンセスよ!」




