錆びた赤とコバルトの境界線
1枚の絵だと思って読んでみてください!
朝凪の多島海は、歪んだ鏡面、塩分を含んだ水蒸気に、鳥たちの輪郭が溶けていく。
それは生物というより、空間に穿たれた動く黒い穴、数千年前の水軍が放った矢の、いまだに落ちてこない残像。
造船所のクレーン、その錆びた赤色と、鳥の骨格という生物学的トラス構造が、静かに同期する。
彼らが乗るのは流木ではなく、打ち捨てられたプラスチックの浮標、ミカン畑の斜面から吹き下ろす、クエン酸の風。
羽ばたきは無音、ディーゼルエンジンの重低音が、海底の泥を揺らす。
彼らは波を感知しているのではない、海中を走る光ファイバーの、微弱な電磁波を読んでいる。
乾燥したイリコと、干潟に残された幾何学。
海鳥の嘴は、冷徹なプラスチックの質感を帯び、橋のコンクリートに付着した白い糞がこの海の地形図を描き出す。
多島海の鏡面を割り、錆びた赤色の水軍の矢が、ついに外洋へと放たれる。
彼らが目指すのは、コンクリートの橋脚に囲まれた内海ではなく、世界中の海底をのたうつ、未知の光ファイバーケーブルの全容。
造船所のクレーンを巨大なマストに変え、電子の潮目を読みながら、鳥たちは国境線のない大洋へ羽ばたく。
塩分を吸ったプラスチックの浮標を蹴り、クエン酸の風をはらんで海原を侵食する、もっとも危険な地形図。
潮位表の数字が途切れ、多島海の鏡面は完全に破砕された。
そして、造船所の錆びた赤を脱ぎ捨て、コバルトブルーに降り立つ。
オリーブの風が吹く、その大理石の白さは、かつてコンクリートに刻まれた、白い糞のグラフィティの記憶。
彼らが感知するのは、もはや光ファイバーの電磁波ではない。
数千年の塩分が結晶化した、海底に沈む青銅の歯車。
クエン酸の記憶を、乾いた白ワインの酸味へと塗り替えながら、電子の海賊は、異郷の乾いた風の中に、新たなる略奪の地形図を描き始める。
瀬戸内海へ旅した時の日記です。
これからヨーロッパに行く機会が増えそうなので瀬戸内海から地中海にいく海賊の姿を思いついたので描いてみました。




