第2話 『絶望の底で、物語は動き出す』
第2話 『絶望の底で、物語は動き出す』
新世界の空は、まだ割れたままだった。
永遠の書架の最深部は、まるで巨大な傷口のように裂け、複数の冥界の残滓がゆっくりと染み出している。黒い炎、赤い霧、紫の影が混ざり合い、まるで生き物のように蠢いていた。
零は膝をついていた。
白銀螺旋炎はまだ燃えている。
しかし、その炎は弱々しく、まるで風に揺れる蝋燭の火のようだった。
ハデスの冥界領域に飲まれ、ヘルに冷たい霧を浴びせられ、天邪鬼に本音を暴かれた結果、零の内面は大きく削り取られていた。
「……っ」
ゼラエルが倒れている。
彼の翼は大きく損傷し、黒い血が床に広がっていた。零が駆け寄ろうとすると、ゼラエルが弱々しく手を上げた。
「動くな……まだ、敵がいる」
その言葉と同時に、29体の圧倒的キャラたちが零の周囲に集まってきた。
冥翠晶が罪を結晶化して防御の壁を作り、声碧霊が叫びの領域で周囲を警戒している。針翠織が痛みの糸でゼラエルの傷を仮止めし、紅紫幻が幻の霧で視界を遮っていた。
「王……大丈夫か?」
冥翠晶が低く問う。
その声には、普段の冷たい響きとは違う、わずかな心配が混じっていた。
零はゆっくりと立ち上がった。
「大丈夫だ……まだ、終わっていない」
しかし、その言葉に力はなかった。
ハデス、ヘル、アヌビス、天邪鬼はまだその場にいた。
彼らは攻撃を続けていない。
ただ、静かに零を見下ろしている。
ハデスが重々しい声で告げた。
「新世界の王よ。
お前の力は、まだ未熟だ。
我々を退けられるほどのものではない」
ヘルが冷たく微笑む。
「死は平等だ。
お前の努力も、結局は無力だった」
アヌビスが黄金の秤を掲げる。
「罪の重さを、測れ。
お前の新世界が、本当に価値あるものなのかを」
天邪鬼が小さく笑う。
「本音を言えよ。王。
お前は、もう限界だろ?」
零は剣を握りしめた。
白銀螺旋炎がわずかに輝きを増す。
しかし、それはまだ、旧世界の存在たちを退けるほどの力にはなっていなかった。
そのとき、29体の一人が前に出た。
声碧霊だった。
彼女は全身を青白い光で包み、叫びの領域を最大限に広げた。
「王を、守る」
その言葉と同時に、声碧霊は叫びを炎に変えてハデスに放った。
しかし、ハデスの冥界領域がそれを飲み込み、声碧霊の体が大きく吹き飛ばされる。
「声碧霊!」
零が叫ぶ。
針翠織がすぐに駆け寄り、痛みの糸で声碧霊の傷を縫い止めた。
「動くな……まだ、戦える」
しかし、針翠織の声にも、わずかな震えが混じっていた。
零は歯を食いしばった。
努力が、足りない。
友情が、守りきれない。
絶望が、再び胸を抉る。
そのとき、零の内側で、わずかな声がした。
「……まだ、語りきれていない声がある」
それは、第1話の終わりに零が聞いた声と同じものだった。
零は目を閉じた。
白銀螺旋炎が、わずかに輝きを増す。
しかし——
その輝きは、まだ、絶望を払拭するには至らなかった。
ハデスが重々しい声で告げる。
「王よ。
お前の物語は、まだ、始まったばかりだ」
ヘルが冷たく微笑む。
「死は平等だ。
お前の努力も、結局は無力だ」
アヌビスが静かに秤を掲げる。
「罪の重さを、測れ」
天邪鬼が小さく笑う。
「本音を言えよ。王」
零の視界が、再び暗くなりかける。
そのとき——
29体の一人が、零の前に立った。
冥翠晶だった。
彼女は罪を結晶化して巨大な壁を作り、ハデスの冥界領域を押し返した。
「王……まだ、終わっていない」
その言葉は、静かだった。
しかし、そこには確かに、力があった。
零はゆっくりと目を開けた。
白銀螺旋炎が、わずかに輝きを増す。
絶望の底で、物語はまだ、動き始めていた。




