第0.1.4量子パルス:静かなる帰還
≡ Quantum Pulse 0.1.4 / The Quiet Return
赤黒く焼け焦げた機体が、潮の香りのする海岸に流れ着いたのは、夜明け前だった。一隻の回収艇が、ほとんど無言のまま、静かにその残骸に近づいていく。漁火のような光が、ひび割れた外殻を照らすと、中から、かすかに蒸気のようなものが漏れた。
音はなかった。音がないという事実が、かえって緊張を深めた。
「内部、無人。生命反応、なし……のようです」
「記録カプセルは?」
「……損傷してます。が、なにかあります」
若い調査員が、ゆっくりと手を伸ばす。膠着した空気の中で、赤いランプが点いた。センサーが、警告音を上げることはなかった。
代わりに、小さく“点滅”した。それだけだった。――未知の有機成分を検出。
どこか遠く――少なくとも、少年・翔太の暮らす町から、あまりにもかけ離れた場所で。そんな場所が、現実に存在していることを、彼はまだ知らない。通信班のひとりが、記録装置を覗き込みながら、ぽつりと呟いた。
「これは……どこから戻ってきた?」
「……上だよ」
「上?」
「この空の……その、ずっと向こうからさ」
会話はそれ以上続かなかった。書類にも、報告にも、このやり取りは残されなかった。数日後。
調査関係者のひとりが、咳をこぼした。風邪だと思った。そう思いたかった。
その“微熱”が、最初だったと後に分かるまでに、どれだけの時間が経っただろう。地平線の向こう、乾いた赤い砂を吹き上げる無人都市。かつて人が暮らしていた高層のドームに、今はただ、警告灯だけが瞬いていた。
異なる時を生きるその場所で、何かが、音もなく崩れ始めていた。




