第0.1.3量子パルス:奇人博士との再会
≡ Quantum Pulse 0.1.3 / The Mad Scientist Next Door
ガレージから出てきたのは、鉄のかたまりのような車だった。トヨタのAE86。いわくつきの名車らしいが、年季が入りすぎて原型をとどめていない。
ボンネットには銀色の配線と手書きの数式がガムテープで貼られている。
「どうだ、翔太くん。時空境界波、聞いたか?」
いきなりの言葉に、翔太は返事に困った。博士の言う「聞いたか?」は、新聞やニュースを指す場合もあれば、夢の中の声を意味することもある。
「ああ、ラジオの話なら……少しだけ」
「少しだけ、では見落とす。世界はほんの小さな“ひずみ”から、別の層へと繋がっていくものだ」
博士はニヤリと笑い、車の後部をバンと叩いた。
「このマシンも完成に近づいている。あとは電源だな。ついに――繋がる日が来るかもしれん」
「どこに、ですか?」
「常識の向こう側だ」
こういう調子なのだ。論理と幻想が半々で、翔太にとってはどこか懐かしい“理科室の匂い”に似ていた。博士の本名は毒蝮義一。
町内の誰もが顔を知っている変人で、翔太の父の古い知り合いだという。
「今夜、来るか? ちょっとした調整があってな」
「……はい」
断る理由は、特になかった。ただ、博士の作る“普通じゃない時間”にいると、何かが解けるような気がした。AE86のエンジンが唸ると、近所の猫が二階のベランダから飛び降りた。
翔太は助手席に乗りこみながら、そっと言った。
「ほんとに……どこに繋がるんだろうな」
この町でいちばん“現実離れ”した人間が、今日も何かの扉を叩いている。その音が、どこまで届いているのかは、まだ誰にもわからなかった。




