第2.6量子パルス:沈黙の部屋で語られた選ばれし血
≡ Quantum Pulse 2.6 / The Sequence Within
窓の外では春の陽射しが、午後の屋根瓦を斜めに照らしていた。放課後の静けさに包まれた翔太の部屋。学校から戻ったばかりの三人は、互いの顔を見合うように、ささやかな沈黙の中にいた。
結衣は無言のまま、翔太の勉強机に向かう椅子を引き、静かに腰を下ろしていた。翔太はベッドの端に腰掛け、ライラは入り口近くでくるりと振り返り、ゆっくりと部屋の中央へと歩を進めた。小さな部屋は三人で満ちていたが、それでも彼女の立ち止まりには、なぜか“間”があった。
「……さっき話した資源のことだけど、それだけじゃないの」
結衣が小さく顔を上げる。翔太は、先を促すように視線を送った。
「もう一つ、必要なものがあるの。それは、あなたの中にある。――免疫を作る鍵になるもの」
その言葉に、部屋の空気がわずかに張り詰めた。
「具体的に言うと……感染に対する免疫反応を飛躍的に高める“特殊な遺伝子情報”。それがあなたの血の中に確認されたの」
ライラは言葉を選びながらも、真っ直ぐに翔太を見た。
「この世界にいる私たちは、その情報を手がかりに、ワクチンを設計しているの。でも、それだけじゃなくて……その遺伝子がもたらす血液中の特異な酵素や分子構造も、ワクチン生成に欠かせないの」
翔太は、にわかには信じられないという表情を浮かべたまま、しかし視線を逸らすことなく受け止めていた。
「俺の……血が?」
「そう。解析チームが何度も何度も照合した情報の中で、あなたの身体にだけ現れる特定のマーカーと、あの資源が反応することが分かったの。それがなければ、ワクチンは機能しない。少なくとも……今の私たちには、それが唯一の手がかりなの」
ライラの声には、確信と、わずかな躊躇いが入り混じっていた。
「……そんなの、偶然すぎる」
結衣がぽつりと呟くように言った。翔太は彼女を横目に見ながら、黙って頷いた。
「偶然じゃないのかもしれない。でも私は、それが何よりの希望だと思ってる。――あなたが、ここにいたことが」
その言葉の先にある意味を、翔太も結衣も、まだ正確には掴みきれずにいた。ただ、何かが変わりはじめていることだけは、確かに感じていた。




