第2.5量子パルス:沈黙の海に眠る鍵
≡ Quantum Pulse 2.5 / The Key Sleeping Beneath the Silent Sea
窓の外では春の風がすこしだけ頬を撫でていたが、翔太の部屋の中は不思議な沈黙に包まれていた。教室とは違う、生活の匂いがする空間。勉強机とカーテンがある、ごく普通の十代の少年の部屋だ。
ベッドの隅に、少女――ライラが腰かけ、壁際の棚に背を預けていた。彼女の視線はどこにも定まらず、宙に浮かんだままだった。その隣、ローテーブルの端に座る翔太は、目の前の異質な存在に気を張り詰めつつも、なにか引き寄せられるような感覚を拭えなかった。
そして、翔太の左隣には結衣がいた。制服のまま正座し、彼女は一言も発せずに、ただその空気の重さを受け止めるようにじっとしていた。ライラが、ぽつりと口を開く。
「……ある場所に、必要なものがあるの」
それは秘密の告白にも似ていたが、どこか哀しげでもあった。翔太が、息を飲む。
「どこに?」
ライラは、視線を窓の外に向ける。目には光がなかった。
「南の海。とても深くて、静かで、誰も近づけないような場所。そこに、特別な鉱石が眠ってる」
結衣が微かに肩を震わせる。どこか、現実味のない話だった。けれど、彼女の語り口は真実そのもののようでもあった。
翔太はふいに思い出す。ニュースで耳にした海底資源の話。南鳥島沖の深海――調査が進められていたはずだ。
レアアース。それが彼女たちの世界における呼称かどうかは、もはや重要ではなかった。彼女が求めているのは、名前ではなく、それを通して繋がる「何か」なのだと翔太は感じた。
「それが……その鉱石が、病を治す薬に?」
ライラは首を横に振った。
「直接じゃない。でも、それがなければ作れないものがある。生き延びるために、どうしても欠かせないもの……そういうものなの」
沈黙が訪れた。時計の針が、乾いた音を立ててひとつ、進む。
「……わたしだけじゃ無理。でも、あなたたちとなら、きっと探せる。きっと――意味がある」
その言葉に、翔太は思わず手を握りしめた。そして結衣は、その手をちらりと見て、小さくうなずいた。




