第2.4量子パルス:使命は遠く、しかし確かに
≡ Quantum Pulse 2.4 / A Distant, Certain Mission
「……だから、お願いがあるの」
放課後の教室に静かに響いたその声は、誰かが忘れかけていた記憶の端をそっとくすぐるようだった。夕陽が窓ガラス越しに細く入り、床の木目を淡く染めている。翔太と結衣は席に残っていた。
教室には、もう誰の足音もない。ライラは、窓辺に立ったまま、空のどこか一点を見つめていた。強い瞳のはずなのに、今はその奥に、どこか薄い影のようなものが漂っていた。
「わたしがここに来たのは、きっと偶然じゃないと思う。突然だったけど、あれは……理由のない出来事じゃなかった。呼ばれたような、もしかしたら、導かれたような……そんな気がするの」
翔太が小さく喉を鳴らすと、隣の結衣が視線を落とした。誰も何も言わなかった。けれど、ライラの言葉には、背中を真っすぐ押してくるような力があった。
「わたしのいた世界では、どうしても越えられない壁があって……わたしたちの力だけじゃ、そこに届かなくなっていたの。技術でも、知識でも、心だけでも足りなかった」
彼女は手を胸のあたりでぎゅっと握った。
「だから、あなたたちが持っている“何か”が必要なの。言葉ではうまく言えないけど……目に見えない、でも確かにあるもの。忘れられていたけれど、すごく大事な感覚。わたしの世界では、もう誰も気づかなくなってしまったもの」
翔太は、ふいに胸の奥がざわつくのを感じた。結衣もまた、何かを察したように顔を上げる。
「全部は、まだ話せない。ごめんね。でも……わたしひとりの問題じゃないんだ。わたしのいた場所で、いまも静かに苦しんでいる誰かのために……どうしても、ここで繋がなきゃいけなかったの」
ライラはそう言いながら、ほんの一瞬だけ微笑んだ。その笑顔は、どこか哀しみを内包した、決意のにじむものだった。
「だから……わたしに、少しだけ、力を貸してほしいの」
誰も返事をしなかった。ただ、静けさだけがそこにあった。それは沈黙というより、言葉のいらない呼吸のようなものだった。
その空気のなかに、確かなものが芽吹き始めていた。




