第2.3量子パルス:星々の軋みが聞こえる
≡ Quantum Pulse 2.3 / The Grinding of Distant Stars
「……だけど、それだけじゃ、ないんだ」
静かに言葉を落としたライラの横顔に、翔太は不意にざわりとした不安を覚えた。さっきまでのパンデミックの話が霞むほど、彼女の目には新たな翳りが浮かんでいた。
「わたしたちの空の、もっともっと向こうでね……星と星が、ぶつかるの」
教室の天井を見上げるようにして、彼女はぽつりと続けた。結衣は、何を言っているのか最初は理解できなかったようで、困惑したまま翔太の方を見た。
「星って……隕石とか、そういうの?」
「ううん、そんな小さい話じゃない。もっとずっと大きくて……銀河、ってこっちでも言うのかな。何億、何兆って星が詰まった、巨大な渦のかたまり。それ同士が、ものすごい速さで、ぶつかろうとしてるの」
ライラの声は決して大きくなかった。それでも、その内容は教室の空気を冷たく引き締めた。
「わたしたちの故郷は、その渦の片隅にあるの。ふつうなら……そんな衝突、何億年も先の出来事で、誰も気にしない。でも、わたしたちの世界では、“重力の歪み”が早まってる。軌道も、距離も、おかしくなってて――計算より、ずっと早く、衝突が始まりそうなの」
翔太は、机の上に置かれたシャープペンをじっと見つめた。それは、彼の手の中で静かに眠っていたが、まるで世界のどこかが今にも壊れそうな気配に、耳を澄ませているようだった。
「わたしたちの科学でも、もう防げないかもしれないって……。光の波じゃなくて、時空そのものがね、ぐにゃって、裂け始めてるって言ってた」
翔太と結衣は、互いに目を見合わせた。そのどちらにも、言葉がなかった。言葉が追いつかないほどのことを、ライラは今、自分たちに伝えていた。
「でも――それでもわたし、ここに来て、思ったの」
ライラは小さく微笑んだ。その笑みには、ほんのわずかだけれど、希望のようなものが滲んでいた。
「この世界は……まだ平気だって。空が青くて、風が気持ちよくて、花の匂いがちゃんとある世界って、すごく貴重なの。だから――守ってほしいの。たとえ、それがわたしの世界じゃなくても」
その願いのような言葉が、教室の隅に染みこんでいった。星々の衝突など、遠い宇宙の話のはずだった。でも、ライラの語りは、確かにこの世界のどこかを震わせたのだった。




