第2.2量子パルス:遥かなる疫の気配
≡ Quantum Pulse 2.2 / Omen of the Distant Plague
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴っても、誰も教室に戻ろうとしなかった。空き教室の隅、掃除道具が整然と並んだ壁際の長椅子に、三人は無言で座っていた。窓の外では風が葉を揺らし、校庭の鉄棒が鈍く軋んでいた。
「……たぶん、こっちの世界で言うなら、“パンデミック”っていうのが一番近いのかな」
ライラの声は静かだったが、どこか底の方で震えていた。彼女の瞳には、遠く見えない場所の景色が映っているようで、翔太も結衣も、息を呑んで彼女の顔を見守った。
「わたしの……住んでた世界にはね、空気に混ざった“毒”のようなものが、街中に広がり始めたの」
その言葉に、結衣の眉がわずかに動いた。ライラの話す“毒”が、単なる比喩ではないと直感したのだろう。翔太もまた、ライラの細い指先がほんの少し震えているのに気づいていた。
「それは……病気なの?」
翔太が問いかけると、ライラは小さく首を振った。
「ただの病気じゃないと思う。でも、みんなそう言ってた。“新しい病気”だって。咳をして、熱が出て、次第に……目を合わせなくなる。声も出さなくなる。やがて、何かが抜け落ちたみたいに、ただ黙って、止まるの」
その一文に、背筋を撫でるような寒気が走った。
「でも、どうしてか分からないけど、そうなった人の近くにいると、こっちまで……何か、吸い取られてくみたいな、そんな感じがするの」
誰も何も言えなかった。教室の隅に差し込む日差しが、わずかに埃を浮かせながら、三人の沈黙を照らしていた。
「たぶん、ここの人たちも、きっと同じように頑張れる。そんな気がするの」
ライラの微笑みは、どこか儚く、それでいて――ひどく強かった。




