第2.1.4量子パルス:きらめく三角関係の縁辺
≡ Quantum Pulse 2.1.4 / The Edge of Triangular Twinkle
放課後の図書館、夏の日差しがまだ廊下の隅に残っていた。翔太は英語の課題に四苦八苦していたが、隣の席から時折聞こえる小さな歌声に集中を乱されっぱなしだった。
「しょーた、あのコトバ、すき」
ライラが指差したのは“communication”の綴りだった。彼女はその意味も用法もおぼつかないはずなのに、どこか無邪気に響かせる発音は、耳に残って離れない。翔太は苦笑しながら、「それ、会話とか、つながりって意味だよ」とだけ教える。
ライラは「ふーん」と頷いたが、ほんとうに理解したのかは分からない。そんな彼らを、三列後ろの棚の陰から、結衣が静かに見つめていた。彼女は教室では笑顔を絶やさない優等生だけれど、今はまるで異なる表情をしていた。
放課後、部室で翔太と二人きりのとき、結衣はぽつりと漏らす。
「最近、ちょっと変わったよね、翔太くん。あの子と話してるとき、なんか……別人みたい」
翔太は否定しようとして言葉を飲み込んだ。自分でも気づいているのかもしれない。ライラの奔放な仕草や言葉に、振り回されながらも、どこか救われていることを。
その翌日、校舎の裏手でライラが給食のパック牛乳を振り回して「この飲み物、はじめてなのに……なんだか好きかも」と叫び、開けた瞬間に全身に浴びる騒ぎがあった。翔太は即座にハンカチを差し出し、「もう、ほんとにやめてくれってば……」と呆れるが、その顔には怒りではなく、困ったような微笑があった。
「おしえてよ、しょーたのこと、もっと」
ライラの言葉が無邪気に響いた瞬間、遠くから聞こえた結衣の足音が、不意に止まった。風が通り抜けたのか、それとも胸の奥のどこかに、何かが芽生えた音だったのか。三人の距離は、ほんの数日で、もう誰にも測れなくなっていた。




