第2.1.1量子パルス:転入生、奇妙なる登場
≡ Quantum Pulse 2.1.1 / Strange Entrance of the Transfer Girl
春の朝というには、あまりにざわざわとした気配が漂っていた。昇降口に立つ教師の声が、どこか上ずっているように聞こえたのは、翔太の耳のせいだけではなかった。その少女は、あまりにも自然で、あまりにも異質だった。
誰に教わったのか、制服の着こなしは完璧だった。ただし、何かが、違った。スカートの丈でも、ネクタイの結び方でもない。
彼女の歩き方、まなざし、空気の切り方、それらすべてが、この世界のリズムとほんの少しずれていた。
「え……誰?」
翔太の隣で呟いたのは、クラスメイトのリナだったかもしれない。だが、その声はすぐに、教室のざわめきに呑まれていった。
「ホシノ・ライラです。よろしくお願いします」
それだけだった。淡々とした自己紹介に続いて、彼女は窓際の席へと導かれた。廊下側の翔太の席の、ちょうど対角線上。
彼女が座ると、教室全体が、見えない膜で仕切られたような感覚に包まれた。
「よろしく……」
翔太は声に出さなかった。目が合った気がして、息を呑んだ。だが、ライラの瞳はそのまま遠くを見ていた。
あるいは、彼の向こう側、もっと遠く、時の向こう側を覗いていたのかもしれない。
「この世界のこと、まだぜんぶは分からないけど――」
昼休み、唐突にそう言い出したライラに、翔太は言葉を失った。周囲の生徒たちは、興味と警戒と――ちょっとした憧れの入り混じったまなざしで、彼女の一挙手一投足を注視していた。水筒のふたを逆に付けてこぼしたり、椅子を逆さに座って注意されたり――ライラはどこか、ずれていた。
でも、それが妙に魅力的だった。翔太の平凡な日常は、ひび割れを始めていた。誰のせいでもなく、ただそこに彼女が現れたという、それだけで。
「どうやって転入許可が下りたのかって?……自分でも、よくわからない。
あの夜、ドク博士が何か手を回したのか、翌朝には“青山ライラ”って名前の資料が学校に届いてた。役所にも、なぜか“保護者:毒蝮健一”って書かれた申請書が提出されてたって…… まるで、誰かが最初からそうなるように、段取りを整えていたみたいだった」




