第1.5量子パルス:言葉の輪郭
≡ Quantum Pulse 1.5 / Contours of Language
彼女は、まだ半分夢の中にいるようなまなざしで、翔太の方を見つめた。だがその瞳には、警戒でも恐れでもなく、ただ――不思議そうな興味が浮かんでいた。翔太は、喉の奥に引っかかるような緊張をひとつ呑み込んで、小さな声で言った。
「……だ、大丈夫?」
彼女は首を少しかしげた。その仕草が、子猫のように愛らしくて、翔太は思わず目をそらしてしまう。言葉は通じていないらしい。
でも、音の調子には反応している。人の気配を測るような、そんな動きだった。
「すごいな……君、いったい……どこから来たの?」
今度はドクがずいと前に出て、手元のノートPCを抱えたまま、興奮した声で問いかけた。
「こっちの言葉はわかるか? どこから来た? 名前は? どうやってこっちに来た? パラレルか? 時空の裂け目か?」
怒涛の質問の波に、少女はぱちぱちと瞬きを繰り返した。それから、くすっと笑った。まるで、質問の意味が理解できたのか、それとも何か愉快な冗談だと受け取ったのか――判別がつかなかった。
「……ラ、イ……ラ」
言葉がこぼれた。音のひとつひとつが、舌先で転がされるように丁寧だった。
「ライラ……? 君の名前か?」翔太が思わず聞き返す。
少女はにこりと笑ってうなずいた。どこか異国の、あるいは異なる層の――響き。ドクは手帳に何かを書きつけていたが、その手も止めて言った。
「すごいぞ翔太君!言葉の基本構文がこっちと似てる。もしかすると、類似した音韻構造を持つ異次元文化圏かも……」
その熱量に、ライラはきょとんとしていたが、次の瞬間、研究所の隅に置かれていたぬいぐるみに手を伸ばした。ぽす、とそれを抱きしめると、ふにゃりとした笑顔で「にゃん」と口にする。
「……なんか、変わった子だな……」
翔太は思わずつぶやいた。その笑顔には、緊迫した空気を溶かす、何か魔法のようなものがあった。言葉はまだ通じなくても、表情や仕草が、彼女の奔放で飾らない性格を雄弁に物語っていた。




