第1.4.2量子パルス:目覚めの迷宮
≡ Quantum Pulse 1.4 / Labyrinth of Awakening
機械の発する断続的な警告音と、焼けた金属の匂いがまだ薄く漂う研究所に、静けさが戻ったのはしばらくしてからだった。薄明かりの中、床に横たわる少女は、ようやくうっすらと瞼を持ち上げた。その動きは、水底の藻が揺れるようにゆるやかで、かつ、意志のない反射に近かった。
瞳が開かれたとき、そこにはこの世界のものとは思えない色彩が宿っていた。青とも緑ともつかず、濡れた鉱石のような光沢をたたえていた。翔太は、息をひそめて彼女を見つめていた。
先ほどまでの異常事態の余韻が、まだ頭の中に残響している。彼女は手をわずかに動かし、指先で床の素材をなぞった。まるで、その冷たさや硬さが何なのかを確かめるかのように。
そして彼女は、顔をゆっくりと巡らせ、研究所内の景色を眺めた。蛍光灯、計器、配線、そして翔太たちの服装……。そのひとつひとつに、目を細める。
プラスチック製のコップを見つけたときは、眉をひそめ、恐る恐るそれに触れた。目に映るものすべてが、彼女にとって“異物”であるようだった。
「……ミェルナ・カーゼ……?」
少女が口にしたその言葉は、現代日本語の文法や語彙には当てはまらなかった。けれど、どこか響きだけは、懐かしい童謡の一節のようでもあった。翔太はその音の感触に、なぜか胸がざわついた。
「聞き取れるか? 翔太君。どうやら、彼女の言葉は――」
ドクが横から割り込もうとしたその瞬間、少女のまなざしが翔太に向けられた。その視線には、はっきりと“助けを求める迷い”があった。異質でありながらも、そこに確かな感情があることに、翔太は言葉を失った。




