第1.3量子パルス:裂け目の奥のまばゆさ
≡ Quantum Pulse 1.3 / Dazzle Beyond the Rift
床板が震え、空気が膨張した。まるで天井の向こうに、目に見えない何かが“息を吸っている”かのように。翔太はその気配に、無意識のうちに肩をすくめていた。
Φシフターが唸り声をあげ、青白い閃光を一閃放つと、研究所の中心で、空間がわずかに歪んだ。光というよりも、深さだった。そこに生まれたのは“裂け目”というより“距離”のようなものだった。
無理やり引き延ばされた空気が、ぱきりと音を立て、そこに漆黒の断層が露わになった。どこかに続いているのか、あるいはまったく別の場所なのか、翔太には判断がつかなかった。ただ、そこにある“暗さ”は、夜とも闇とも違う種類のものだった。
「……うわ、なんだ……!」
裂け目の奥から、細く震える光がにじみ出てきた。それは徐々に太く、そして眩しくなり、研究所の片隅に置かれていた古い計測機器が一斉にノイズを発した。ドク博士は歓喜に満ちた表情で両腕を広げ、目を閉じていたが、翔太の目には、それが祈りのようにも、狂気のようにも見えた。
そのとき――闇の裂け目が、わずかに収縮したかと思うと、何かが“こちら”に放り出された。重力に逆らうでもなく、落ちるでもなく、ただふわりと、空間に浮かんだまま、少女が現れた。倒れた少女は、しばらく動かなかった。
彼女の周囲には、ほのかな光の粒が舞っており、それが静かに沈殿していく様子は、まるで現実の時間の外にあるかのようだった。翔太が半歩近づいたその瞬間、彼女のまぶたがふるえ、細く開いた。その瞳には、説明のつかない“遠さ”が宿っていた。
懐かしいというより、見たことがある気がする――いや、きっと見てはいない。でも、どこかの夢で出会ったような。彼女の衣服は、不思議な布地でできていた。
きらきらと光を反射し、しかし金属でもなく、布でもない。装飾は精緻だったが、民族的でもなく、どの国の制服にも似ていない。翔太はそれを「祭りの衣装のような……でも、違う」と感じた。
あらゆる意味で“現実から浮いている”印象だった。
「……人間……だよな?」
思わずつぶやいた翔太に、ドク博士の声が重なる。「おお、やった!見ろ!これが接続だ、門は開かれたぞ!」翔太は、目の前で横たわる少女と、その裂け目の奥に揺れる光を交互に見つめながら、どうしようもない胸騒ぎを覚えていた。――何かが始まった。
世界の形が、わずかに、でも確かに変わったのだ。




