第0.1.1量子パルス:高校生のありふれた日々
≡ Quantum Pulse 0.1.1 / Ordinary Days of a High Schooler
これは、ありふれた高校生だった俺が、宇宙の記録を愛で上書きするまでの記録だ。
鉛筆の芯が、ノートの罫線をなぞる音だけが部屋に響いていた。天野翔太は、自室のローテーブルに突っ伏すような格好で数学の宿題と格闘していた。エアコンの風が弱くなり、古びた換気扇がカラカラと不規則に鳴る。
その音すら、集中の邪魔になるほど、彼の脳は散漫だった。部屋の隅に積まれた教科書、開いたままのタブレット、未使用の模試。どれも“いま”に関係がない気がして、触れる気になれない。
「x²+y²=r²……って、何の役に立つんだよ」
声に出してみても答えは返ってこない。翔太の成績は平均より少し下、部活にも打ち込まず、将来の夢もない。ただ、“今日”をやり過ごすことだけに慣れてしまっていた。
壁にかかる小さな写真立ての中には、白衣姿の父の姿がある。小さな研究所で静かに仕事をしていた父は、数年前、病気で急にいなくなった。
「なあ翔太、お前も研究所に来てみないか」
昨夜、近所の毒蝮博士にそう声をかけられた。あの人は、父の同僚だったらしい。風変わりで、町内では有名な変人だが、翔太にとっては不思議と心が落ち着く存在だった。




