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四月の雨音

第五章 精華公園を歩く


「よかったら、少し歩きませんか。近くに公園があるんです」


海斗の提案に、瑞希は頷いた。二人はテイクアウト用のカップを手に、カフェを出た。目指したのは、カフェからほど近い精華公園だった 。


そこは、観光地化された名所ではなく、地域の人々の生活に根差した、ありふれた公園だった。広い砂場ではしゃぐ子供たちの声、ベンチで休憩するサラリーマン、自然観察ができるように整備された小さなビオトープ 。そのすべてが、地に足の着いた日常の風景を形作っていた。


曇り空の下、満開の桜を見上げながら、彼らの会話は少しずつ深まっていく。


「20代の頃は、恋愛って、もっとドキドキするものだと思っていました」と瑞希が切り出した。「でも、今は……なんて言うか、一緒にいて落ち着ける人がいいなって思うんです。安心感、みたいな」 。


「分かります」と海斗が応じた。「俺も、ずっと『計画』通りに進まないとダメだと思っていました。いい会社に入って、昇進して……。でも最近、自分が本当に何をしたいのか、分からなくなる時があるんです」 。


瑞希は、自分の仕事についても語った。プロジェクトを成功させる達成感はある。でも、それが本当に自分のやりたいことなのか、時々分からなくなる。キャリアの高原プラトーに達してしまったような、停滞感 。それは、30代の働く女性が共通して抱える、言葉にしにくい悩みだった 。


彼らは、互いの告白の中に、自分自身の姿を映し見ていた。社会が用意した「成功」のテンプレートと、自分の心の声との間のギャップに、静かに苦しんでいる。その苦しみを分かち合える相手がいるという事実は、温かいコーヒーのように、彼らの心をゆっくりと溶かしていった。


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