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シャンパンゴールドのため息、銀色の約束
第六章 ガス灯の邂逅
銀山温泉に到着したとき、雪は羽毛のように柔らかく舞っていた。街は、写真で見たとおりの世界だった。銀山川のせせらぎ、両岸に立ち並ぶ木造旅館、そして、温かく揺らめくガス灯の光 。温泉街は車両乗り入れが禁止されており、誰もがゆっくりとしたペースで歩かざるを得ない 。東京なら二度と会わなかっただろう。でも、この街はまるで、人と人とを近づけるように設計されているようだ、と結菜は思った。
彼女は、ある旅館の壁に施された色鮮やかな鏝絵に目を奪われ、スマートフォンで写真を撮ろうとしていた 。その時、背後から穏やかな声がした。
「それは左官職人が漆喰で作ったレリーフですよ。百年以上の風雪に耐えると言われています」
振り返ると、そこに立っていたのは、数日前の丸の内のバーで見かけた男だった。海斗だ。二人は互いを認識し、一瞬、言葉を失った。しかし、東京で感じたような気まずさは、ここにはなかった。代わりに、この美しい場所を共有しているという、不思議な連帯感が二人を包んだ。
都会の喧騒の中では決して生まれなかったであろう、自然な出会い。それはまるで、この温泉街が持つ特別な力が、二人を引き合わせたかのようだった。




