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シャンパンゴールドのため息、銀色の約束
第五章 海斗 定められた静養
同じ頃、海斗も旅の支度をしていた。彼の銀山温泉への旅は、結菜のような衝動的なものではなく、以前から計画されていたものだった。亡くなった祖父も建築家で、生前、銀山温泉の街並みをこよなく愛していた 。
鞄に荷物を詰めながら、書斎の棚にあった祖父の古いスケッチブックを手に取る。パラパラとめくると、銀山の旅館の精緻なスケッチの横に、祖父の走り書きがあった。「効率性ではない。人の温もりのための垂直性」。海斗は、燃え尽きてしまった創造への情熱を、ここで再び見つけられるかもしれない、という淡い期待を胸に抱いた。
彼にとって、この旅は「リセット」だった。あの歴史的な建造物を自分の目で見て、触れて、それらがどのようにして温もりと共同体の感覚を生み出しているのかを理解したかった 。それは、彼が設計する近代的で無機質な建物に欠けているものだった。




