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シャンパンゴールドのため息、銀色の約束
第二部 銀世界への旅路
第四章 結菜 衝動的な逃避
数日後、結菜はオフィスで限界を感じていた。昼休み、彼女は自席でぼんやりと旅行サイトを眺めていた。目に飛び込んできたのは、「冬の逃避行」という特集記事。そこに掲載されていた一枚の写真が、彼女の心を鷲掴みにした。
雪が降り積もる夜の銀山温泉。ガス灯の温かい光に照らされた、大正ロマンの香り漂う木造旅館の街並み 。それはまるで、夢か映画のワンシーンのようだった。記事の片隅に、ある著名な建築家の言葉が引用されていた。「現代人が失った、ヒューマンスケールな温もりを取り戻せる場所だ」。その一文が、妙に結菜の心に引っかかった。
自分でも説明のつかない衝動に駆られ、結菜は指を動かしていた。次の週末、一人旅。予約完了の文字が画面に表示されたとき、彼女は小さな反逆を成し遂げたような、不思議な解放感を覚えた。これは誰かを探すための旅ではない。自分自身を見つけるための旅だ 。
週末、東京駅のホームに立った結菜は、山形へ向かう新幹線に乗り込んだ。列車が滑り出すと、車窓の風景がゆっくりと変わり始めた。それはまるで、都会で身にまとった幾重もの鎧を、一枚、また一枚と剥がしていくような旅だった 。




