シャンパンゴールドのため息、銀色の約束
第二章 海斗 設計図の重み
同じ頃、建築家の相沢海斗、三十四歳は、丸の内の高層ビルで開かれた、会社の味気ない忘年会の隅に立っていた。窓の外には、宝石をちりばめたような東京の夜景が広がっている。手にしたグラスの液体を意味もなく揺らしながら、彼は周囲の強制された陽気さから、意識的に距離を置いていた 。
海斗は、建築家として一定の評価を得ていた。しかし、その代償として創造的な喜びはすり減り、心身は燃え尽きかけていた 。責任ある立場は、プライベートな生活を営む時間もエネルギーも、彼から奪っていった 。
半年前、長く付き合った恋人と別れた。理由は、彼が仕事にかかりきりだったからだ 。彼女の最後の、諦めたような笑顔が、ふとした瞬間に痛みを伴って胸をよぎる。新しい関係を始めることに、彼は臆病になっていた。また同じことを繰り返すのではないかという恐れが、心の重しになっている 。
彼が渇望しているのは、「安定」であり、「安らぎ」だった 。仕事のプレッシャーを理解し、静かで、支え合えるパートナーシップ。気負わず、ありのままの自分でいられる関係 。ふと、若い後輩が屈託なく女性社員と談笑しているのが目に入った。その軽やかさに、海斗は世代間のギャップを感じずにはいられなかった 。
海斗は再び窓の外に目をやった。彼が設計に関わったビルも、あの光の海の一部となって輝いている。彼は、人々が住まい、働き、憩うための空間を設計する建築家だ。それなのに、彼自身の心には、安らげる「家」がなかった。皮肉なものだ、と彼は思った。グラスに残っていたウイスキーを一口で飲み干し、彼は誰にも気づかれないように、その場をそっと抜け出した。




