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夏の輪郭

第三部 晩夏・残光


第九章 台風


関東地方に台風が接近しているというニュースが、テレビから繰り返し流れていた。湿気を含んだ重い空気が停滞し、風が止まる。その息苦しい気象は、二人の人生に忍び寄る嵐の前触れのようだった。


湊のプロジェクトは、文字通り炎上した。重要なサーバー移行は失敗し、クライアントとの間に致命的な認識の齟齬があったことが発覚した。怒号の飛び交う会議、鳴り止まない電話、オフィスでの徹夜。彼は、プロジェクトという名の戦場で、心身ともに消耗しきっていた。碧との約束はキャンセルされ、彼からのメッセージは「ごめん、忙しい」という無味乾燥なものに変わっていった。


時を同じくして、碧もまた自身の戦場で敗北を喫していた。当てにしていた大きな仕事のコンペに落ちたのだ。クライアントからのフィードバックは曖昧で、それがかえって彼女の才能に対する根源的な不安を掻き立てた。不安定な収入と、たった一人で失敗と向き合わなければならない孤独。彼女が最も支えを必要としていた時、湊は自身の危機に飲み込まれ、そこにはいなかった。


外的な嵐と、内的な嵐。東京と鎌倉という物理的な距離は、そのまま二人の心の距離の象徴となった。


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