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夏の輪郭

第二章 湊・港


対照的に、みなとは東京の高層ビルにある無機質なオフィスで、人工的な光の銀河を見下ろしていた。時刻はすでに深夜を回っている。彼はスピーカーフォンから流れる、苛立ちを隠さないクライアントの声と、疲弊しきった開発チームメンバーの声の間で、冷静な言葉を選びながら仲裁を続けていた。その口調はプロフェッショナルそのものだったが、こめかみを揉む指先や、ガントチャートを映すモニターを見つめる虚ろな瞳が、彼の消耗を物語っていた。


ITプロジェクトマネージャーとして三十代半ばを過ぎ、湊は自分が「プレイヤー」と「マネージャー」の狭間で立ち往生しているように感じていた 。かつては没頭できたコーディングの喜びは遠くなり、今は調整や交渉といった、正解のない人間中心の問題解決に日々忙殺されている 。責任という名の重圧、絶え間なく発生するトラブルへの対応、そして慢性的な長時間労働。燃え盛るプロジェクトの火消しに追われる毎日は、彼の精神を確実に削っていた 。


「このままでいいのか?」


キャリアパスという言葉が、漠然とした不安となって胸に広がる。先日、実家の母親から電話があった。結婚はまだか、と優しく、しかし確信を持って問われた。その言葉は、まるで新たなプロジェクトの要件定義のように聞こえた。満たすべき条件、達成すべきゴール。恋愛すらも、管理すべきタスクのように思えてしまう自分に、湊はうんざりしていた 。


ようやく電話会議が終わる。湊は無言で鞄にラップトップを詰め込み、オフィスを出た。最終電車の規則正しい揺れが、彼を催眠状態のような無感覚に誘う。ふと、衝動が湧き上がった。明日は有給休暇を取ろう。彼が滅多にしないことだった。自宅へ向かう電車を乗り換え、彼は反対方向のホームに立った。数年前に家族と訪れた記憶のある、鎌倉へ行こう。ただ、静かな場所へ。


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