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六話 聖☆毒島総合病院

 まつりちゃんとの初対面は、自己紹介やらいろいろ話している内に夜になってしまったのでそのまま解散した。



「そーいえば慎一郎くん、大学はいいの?」


 今日は12月13日の火曜。平日だ。

 朝から待ち合わせをしたまつりちゃんが聞いてくる。


「ああ、友達に代返頼んであるし、大学ってテストと実習以外はわりかし出なくても平気なんだよ」


 アプリで出席管理されてる今(未来)の大学生は大変だよね、HAHAHA。


「そっちこそ学校は?」

「んー学校は遊びに行ってるだけで、授業はレベル低すぎて聞く意味ないかなー」


 まつりちゃんは医者である勲氏に似て頭が良いらしい。

 授業受ける意味ないなんて、俺も高校時代そんな風に言ってみたかったよ。

 んで、ひとまず何から始めようかと聞かれたから「俺も勲氏の部屋を調べたい」って頼んでみたんだけど、


「だめだめだめ! まだ付き合ってるわけでもないのに、男の人を家にあげるなんてムリに決まってるじゃん!」

「見せてもらうのは勲氏の部屋だけど」

「それでもだめなのぉ」


 めっちゃ拒否られた。

 勲氏の部屋はもう隅から隅まで調査済みということでスキップ。

 一応、手がかり以外にも欲しい物があったんだけど……。



「パパの写真? 昔の写メならあるよ」

「それ回してもいい?」


 俺は勲氏の写真を知り合いに送信した。

 これでも色んなサークルに顔を出して飲み会だけ参加とかしてるし、高校生のまつりちゃんよりは付き合いが広い。俺には高校までの友達や大学だけじゃなくて、ギャンブルを通して知り合ったあんちゃんやキャバのお姉さんといった大人の知り合いもいるからな。もしかしたら目撃情報が引っかかるかもしれない。


「パチンカスネットワークをナメたらいかんぜよ」

「うえー、慎一郎くん、ほんとにギャンブルするんだー」

「スロットはライン工と同じ作業みたいなもんだからギャンブルと言っていいのかわからんけどね。その内、六号機とかルールが変わったら食えなくなるだろうけど、今の時代に勝てないのはただのカモだ」

「そうなの?」


 誰でもマネできるかは別として、大抵のギャンブルには必勝法に近いものがある。中でもスロットは顕著だ。

 台の情報。目標収益や方針など店の情報。どの台にどの設定を入れるか決める店長の情報。台の稼働率、美味しい台を捨てる客、サクラの有無など他客の情報。それらを合わせた上で優良店を探し出し、高設定か期待値がプラスになると計算した台に座る。

 あとは、いい回転数で拾ったハイエナ台は無駄に回さない。高設定の勝てる台に座れたらゲーム的な演出は一切見ない。リールだけを見て小役を取りこぼさないように一回転でも多く回す。それだけだ。

 一日あれば、閉店までに約8000回転。時間がなくても毎回同じようにやっていれば、絶対に(期待値×試行回数)に近づくのだから、天文学レベルの運の悪い人間でもなければ年間通して収支がマイナスになるなんてことはまずありえない。集団で勝てる台を占拠して他の客に渡さなければ効率は更に上がる。だからパチプロなんてヤクザな連中が存在するのだ。



「普通に働きなよ」

「わかってるよ! 学生の間だけだよ!」


 パチスロで食っていけるのなんて今だけだ。

 パチンコ店の経営者は半島系が多い。北朝鮮へ送られる資金源にもなっている。アメリカからの圧力もあって、数年後には規制が厳しくてパチンコ人口も減っていく。年間30兆円を超える産業もいつか衰退するのだ。




 ◇




「茉莉さん。院長、勲さんの件で機嫌悪いから気をつけてね」

「はい。田村さん、どうもありがとうございました」


 院長室の前まで案内してくれた医師に頭を下げる。


 次にやってきたのは、勲氏が働いているという親族の病院だった。

 その名も聖☆毒島総合病院。

 町田は神奈川に行く時も素通りするだけで、ほとんど歩いたことないから知らなかったけど、かなりデカくて綺麗な病院だった。ドラマなんかに出てくる一泊50万円の特別病室とかもあるらしい。高級ホテルのスイートかよ。あとで見学させてください。


「でも……ぷぷっ、『聖』と『毒』が並ぶと中二病感ハンパないよな。てかなんで☆なんだよ。そこはせめて♰だろ。病院名に☆使ってるとこ初めて見たわ」

「それ叔父さんの前で絶対言わないでよ。気にしてるから。病院名決めたのおじいちゃんだから」


 叔父さんとは病院長である毒島巌さんのこと。

 勲氏の一番上の兄である彼は、クリスチャンで鬼のように厳しい人らしい。

 顔を引き締めて扉をノックする。


「ところで、この病院て英語表記だとどうなるの。セイントスターポイズンアイランドホスピタル?」

「口閉じないとマジでぶっ殺されるからね」





「茉莉、学校はどうした。大体なんだその髪は、先生は何も言わないのか」


 巌氏の第一声はそれだった。

 ちなみに、俺の姿は見えていないらしい。ガン無視されている。

 しかも威圧感が一般人とは思えない。身長は高く体格も格闘家みたいで本当に「鬼が出た!」って叫びたくなる感じの人だ。もしかして勲氏も見た目はこんな感じなのだろうか。写メの顔だけじゃ体格までは分からなかったからなぁ。


「直接顔合わせたのも一年ぶりなのに、いきなり学校のことー?」

「大事な事だろうが」

「休んだよ。てかテストで平均95点切ったことないし、授業とかどうでもよくない? あとわたし、自分より劣る人の言うこと聞く気ないから」

「お前の学校は都内でも……はあ、頭の出来と性格は勲と同じか」


 まつりちゃんは、高級ソファーにどかりと腰を下ろして巌氏と睨み合う。

 どうやらこの子を舐めていたな。叔父と姪とはいえものすごい胆力だ。

 しかし、今日の俺はただの付き人。毒島一族の会話に入る気はない――と思って秘書さんが淹れてくれたお茶を静かにすすっていたのに、突然、まつりちゃんが俺を彼氏だと紹介したせいで巌氏の鋭い眼光が向けられた。


 他の言い訳は思いつかなかったのかい、天才少女さんよ。



「貴様、学生だな。大学はどこだ」

「んぐっ!?」


 リアルで貴様なんて初めて言われたせいでお茶を吹きそうになる。

 あぶないあぶない。やっぱ毒島一族ハンパねえわ。


「三橋、経済専攻です。最近は大学が特に法科へ力を入れているので、モグリですがそちらの授業も受けて――」

「医学部がない大学の話などどうでもいい」

「あ、はい」


 巌氏が再び俺への興味をなくしたので、勲氏の話へ移る。



 巌氏はどうやらまだ勲氏の失踪を認めていなかったらしい。

 勲氏の放浪癖という名のボランティア活動は小学生の頃から行われていた。家出少年として何度も捜索願を出されており、親族にとってはもう慣れてしまった問題だという。

 そのクセ、一族で最も優れた頭脳を持っていて、縁を切ろうにも切り捨てられないほどに優秀。今回も連絡なしで帰ってこないことを、ただ怒り心頭で耐えている状態なのだそうだ。



「……そうか、茉莉にも連絡なしか。本当に何かあったやもしれんな」

「これまでに連絡がつかなくなったことは?」

「確か中学生の時、台風の被災地へボランティアに行ったのだったか……あの時は突然いなくなってから十日後に四国から絵葉書が送られてきた。それが最長だ。基本的に一週間以内には何かしらの連絡を寄越してきたはずだ」


 行動力ヤバすぎるぜ勲氏。

 でも先に報連相を身に着けような。

 大人になってもこの扱いでは、善人だろうが優秀だろうが社会不適合者の誹りは避けられないぞ。



「む? クリニックの方は探していないのか?」


 家にあった物には手がかりになるような物は残っておらず、他に探す場所はないか聞いてみると、巌氏が思ってもいなかったことを言い出した。

 クリニック?と聞き返す。どうやら勲氏は、聖毒島総合病院で働いていない日は自身が経営するクリニックで働いていたという。


「えええ、なにそれいつから?」

「開業したのは去年だ。聞いていないのか」

「聞いてなーい!」


 まつりちゃんがぷんぷんと憤慨する。

 毒島一族はちょっと怒るだけで済ませてしまっているが、部外者の俺からすると勲氏がどんどんダメなおっさんに見えてきて仕方がない。金も知識も行動力もあって頼れるおじさんだと思っていたのに、マジで父親失格だよアンタ。

 勲氏のクリニックの住所を聞き、巌氏も何か知っている人がいないか真剣に聞いてみると約束してくれた。次はそのクリニックとやらに向かう。



「……待ちたまえ」


 最後、部屋を出ようとしたら俺だけ残された。

 巌氏は俺を検分するかのように不躾な視線で見まわしてくる。


「茉莉の、友人か?」

「どちらかというと勲氏の友人ですかね」

「……若いな」

「今はインターネットってものがあるんですよ」

「年寄り扱いするな。儂はまだ五十だ」

「一人称が儂の時点で難しい注文ですね」

「生意気な小僧め」


 彼氏というのはウソだとバレバレだった。


「だがそういうことか……。改めて頼む、茉莉を見ていてやってくれ。あれにはもう勲しかおらんと思っていたからな」

「あの……どういう意味ですか」

「香澄さん……茉莉の母親が自殺してから、あれは心を閉ざしてしまった。毎日のように外で暴れ回って……その内、自分の心まで壊してしまうのではないかと……だから今日、君と一緒にいる姿を見て、儂はひどく驚いたのだよ」


 まつりちゃんの母親……勲氏の奥さんが自殺で亡くなっている?

 マジかよ。ちょっと秘密が多すぎるぜ、勲氏。 


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