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一話 2025⇒2005


※この物語には、暴力や自殺などセンシティブな話が含まれます。

十話辺りからかなりダークな話になるので苦手な方はここでブラウザバックすることを推奨します。


「年末くらい家で寝させてくんないかなぁ……しかも、どしゃ降りだし……」


 会社からの帰り道、冬には珍しい大雨だった。手の甲に跳ねた雨粒が刺すような痛みを与えてくる。これなら雪の方がマシだ。時間は午前一時。疲れているし濡れたくもない。俺は工事で通行止めされている公園を通って近道することにした。


「やっと……見つけた……」


 不気味、というより不安を煽るような冷たい声で振り返る。

 今は工事中、しかも深夜だ。公園には誰もいないはずなのに、レインコートを着た男が後をつけてきていた。手にはナイフが握られている。男は走って俺に近づくと、そのまま刃の根本が埋まるほど深く突き刺してきた。


「ひゃははは、やったやったぞ、やっと邪魔者がいなくなったぁあああ」

「なん、で……だれだ……おれに、なんの恨みが……」


 突然の襲撃で、頭が現実に追いつかない。

 男の顔はレインコートのフードに隠れて見えなかった。

 けど、男にしては甲高いこの声に、聞き覚えがないのはわかる。

 外灯の消えた公園の水溜まりに血が混ざって深い黒へと染まっていく。

 ああ、こりゃ助かんねぇな。

 どうにかポケットから取り出したスマホが地面に転がる。

 どうせ死ぬなら来年出るバイオ9をクリアしてからにして欲しかった。

 もう最後なのに、そんなどうでもいいことしか思い浮かばない。

 いい年して嫁も子供もいないし、別にやりたい事とか夢もないしな。

 他に未練ってあったかなぁ、なんて。




〔リプレイしますか?〕


 …………幻覚か。視界がぼやけて見えなくなってきたと思ったら、突然、目の前に変なメッセージウインドウが出てきた。ゲーム脳ここに極まれりだな。


〔リプレイしますか?〕

〔リプレイしますか?〕

〔リプレイしますか?〕


 はいはいはい、イエスイエスイエス。

 震える指を宙に浮いたウインドウへ伸ばして連打する。


 だって今、死にかけてんだぞ。

 夢や希望がないからって死にたいわけじゃない。

 今日一日やり直せるならやり直したいに決まってる。

 とりあえずこんな人気のない公園は避けて、安全な道で帰宅するわ。

 つーか年末にクソ上司の呼び出しなんて無視してやるわ。




 ◇




「おあああああああああああああああぁぁぁ」


 燃えるような腹の痛みで飛び起きた。

 慌ててシャツを脱いで体を確認する。

 だけど刺された傷どころか出血した形跡すら残っていない。


「はっ、はっ、はっ……え、夢? 今の夢? 俺、生きてる?」

「朝は静かにしろって何べん言ったらわかんだ慎一郎コノヤローバカヤロー!」

「すんません!」


 隣人の怒声と壁ドンされた方向へ反射的に頭を下げる。


 って、すんません? 俺は今誰に謝ったんだ?


 頭に疑問が浮かんだ。

 ウチのお隣はおっとりした性格のOLでシングルマザーの長谷川さん家だ。子供はまだ小学生だし、さっきみたいな渋くてドスの利いた声を出せる人じゃない。新しい彼氏は半グレなのだろうか。

 それにお隣さん、なんで俺のこと『慎一郎』てファーストネームで呼んでんだよ。ふつう『戸辺さん』だろ。慣れ慣れしいわ。


「……んん、あれ? でも今の若本○夫似の声、どこかで聞いたことある…………あっ、大学ン時に隣の部屋に住んでた大和さん、か? いや、でもどうして大和さんが……やっぱ夢かこれ」


 なんとなく懐かしい気持ちになって壁越しに声を張り上げてみる。

 大和さんは見た目は怖いけど、頼れるアニキみたいな人だった。アパートの近くにある安い食堂や飲み屋なんかをよく教えてくれた。


「大和さーん、この前万馬券当てたんすけど、今晩飲み行かないすか」

「学生がギャンブルなぞやってんじゃねえ! ……今、納期ギリだから来週の土曜ならいいぜ!」


 やっぱりバルバトスさんだった。違う、大和さんだ。

 じゃあこれは大学の時の夢か。

 あの人、今じゃデカい建設会社の社長になっちゃって住んでる世界が違うし。

 それによく見ると寝ていた布団も部屋も全部大学の時のものだ。

 壁が薄くて隣の部屋のオナラまで聞こえるんだよなぁ。

 ほんと懐かしい。




 ……ところで、この夢はどうやったら覚めるんだろう。


 顔洗っても頬を叩いても筋トレしても夢から覚める気配がない。

 明晰夢かと思ったら違うようだ、ちょっと焦りはじめる。

 通り魔に刺されたのは現実で……走馬灯と夢がごっちゃになってるとか?

 むしろ四十歳まで生きた俺の記憶が夢でこっちが現実?


〔リプレイしますか?〕


 ふとあの時、最後に視た幻を思い出した。


〔リプレイしますか?〕


 いやいやいやまさかね。

 と、頬をつねるが痛いだけでやはり何も変わらない。

 ただ……まだ疼いている腹の痛みも、出血で指先から冷たくなっていく感覚も、震えるくらい鮮明に残っている。


「……やり直したいとは思ったけど、二十年は遡りすぎだろ」


 日めくりカレンダーの日付は、2005年の12月1日だった。


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