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第4話

旦那様とは殆ど顔を合わせない日が続く。そう言えば、アレを断ってからだ。



「旦那様とあれからお話していないわ。それって私がずっと叱られていないって事よね?凄くない?」


野菜の苗を植える私を手伝っているリンジーに少し得意気な顔をしてみせた。


「ふんっ!少しはお灸を据えた意味がありましたかね!」


「お灸……って、リンジー……貴女、旦那様に何を言ったの?」


「フフフッ。さぁ~て何でしょうねぇ」


リンジーが悪い顔で笑う。


「リンジー……貴女、侍女なのよ?此処の使用人。旦那様にあまり尊大な態度は良くないわ」


「別にそんな態度はとっていませんよ。私はあくまでも事実を述べただけです『奥様はどうも旦那様とご一緒に休むと考えただけで熱が出てしまう様です。きっと何か嫌な事でもあったのでしょう……トラウマってやつですね。今はそっとしておいてあげてください』って。ついでに『女性の体はデリケートですので』って付け加えておきました」


「リンジー……私、熱なんて出してないわ」


「嘘も方便ってやつです。誰も不幸にならない嘘ならついても良いんです!」


確かに。旦那様も私と営みをしないからといって不幸にはなりそうもない。



「そうだけど……嘘は苦手」


そう、私は嘘をつくのが苦手。だって直ぐに表情に出てしまうから。そんな私がこの先、一世一代の嘘をつかなければならなくなるなんて、この時は一ミリも考えていなかった。


「そこは私に任せてください!さて、ここのトマトは植え終わりました……っと!」

そう言ってリンジーは立ち上がると体を反らしてグイッと腰を伸ばした。


「イタたたた……」


私も同じ様に立ち上がると額の汗を拭った。

すると途端に、


「あらら奥様……額が土だらけですよ。さて、湯あみでもしましょうか?汗もかきましたしね」

とリンジーに苦笑いされてしまった。




「こんなドレス……初めてだわ」


私は濃紺に銀色の刺繍の入ったドレスに目を輝かせた。


「かぁーっ!こりゃまた豪華なドレスですね」


「それに……凄く大人っぽい。これなら旦那様に釣り合うかしら?でも……私にこれ、着こなせる?」


いつもの私はピンクだ、オレンジだ、水色だとふわふわした可愛らしいワンピースやドレスを好んで着ていた。自分の顔立ちが幼い事もあってその方が似合うと思っていたからだ。あと単純に可愛らしい物が好きだという理由もある。



「このリンジーにお任せあれ!私がとびっきりの淑女に仕上げてみせます!」

リンジーがまた鼻の穴を膨らませて胸を叩く。……やっぱりゴリラっぽい。


今日は王宮での夜会。私は用意されたドレスの前でほんの少し心配になっていた。


「私……上手くやれるかしら?」


「奥様。奥様はとにかく慌てない事です。後は旦那様に任せてしまえばよいのですから」


リンジーに言われ、私は自分の日頃の行いを省みる。確かに落ち着きがないと旦那様にもいつも言われている。


「分かったわ!今日はこのドレスに相応しい振る舞いが出来る様に頑張る!!」

力強く言う私に、


「だから、奥様が張り切ると碌な事がないんですって……」

とリンジーが呟いた。




「私って結構胸があったのね……」


鏡の前でいつもとは全然違う自分の姿に戸惑う。


いつもはふわふわとした明るい金髪を下ろしているが、今日はきっちりと編み込まれ纏められている。濃紺のドレスはガッツリとデコルテが空いており、いつもは控え目な胸元に谷間が出来ていた。


「寄せて上げてますから!力技です!」

この谷間を誕生させた張本人は誇らしげにそう言った。


「この刺繍……とっても綺麗。まるで夜空みたい」


「旦那様の髪色に合わせているんでしょうね。アクセサリーも全てプラチナ。散りばめられたダイヤに目が眩みそうです」


私は首元のネックレスにそっと触れる。大小様々なダイヤが光を反射していた。


「何だか大人になったみたい」


「……実際大人なんですけどね」


リンジーの呟きは最もだが、私は中身が伴っていない。まぁ、そんな自分もそれはそれで好きなのだが。


「これなら夜会で浮かないわ」


「浮かないどころか、夜会の視線を独り占めですよ。……そう言えば、今回の夜会は別名『王太子殿下の婚約者を見つけましょう!』らしいですね」


リンジーの言い方が面白くて笑ってしまう。


「何それ?」


「知らないんですか?今回の夜会には未婚のご令嬢がたくさん招待されているとか」


「それが?」


「どうも中々婚約者を決めきれない殿下のお見合いパーティーみたいなものらしいです」


「あら……そうだったの?でも婚約者が居ないご令嬢なんてほんの一握りなのでは?」


「ここだけの話。婚約者が居ても、殿下に見初められれば、王家の権力でサクッと婚約を白紙に戻されるそうです」


「そ、そんなの横暴よ!酷いわ!」


「なので……どうしても婚約者と離れたくないご令嬢は婚約者を同伴。婚約者なんて捨てて殿下の婚約者に収まりたいご令嬢は単独でのご参加だそうですよ?」


「で、でもそれで殿下に選ばれなかったら?どんな顔をして婚約者の元に戻れば良いの?」


私はその後の事を想像して困惑した。だって『殿下に選ばれなかったので、貴方で我慢します』みたいに思われる事間違いなしだ。その後の結婚生活にまで影響が出そうだ。


「ですよねー。まぁ、殆どのご令嬢が婚約者の方と出席されるのではないですか?」


「そ、それもそうよね。そうであって欲しいわ」


まぁ、私のこの願いにも似た予想は、夜会に行って見事にハズレていたと思い知る事になるのだが、この時は知る由もなかった。



「ですので奥様、まかり間違っても殿下に選ばれる様な事のないように」


「何言ってるの。私はこう見えても既婚者よ。それに私は旦那様と一緒に居るんだし。『私の側を離れるな』と何度も釘を刺されているから」


「その台詞だけ聞くと、まるで恋愛小説の様ですけどね」


「恋愛小説の台詞とは意味合いが全く違うけどね」


「ですね」


私とリンジーはそう言って笑い合った。

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