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第11話

「手紙が……届いた?」

王太子殿下はまるで私の嘘を見破ろうとしているかの様に、ジロジロと私の顔を見た。


「はい……あの……これです」

私は恐る恐る手紙を差し出す。

側近の一人がその手紙を受け取ると、徐ろに殿下へと手渡した。


殿下は手紙にサッと目を通すと、


「これ……本当にコーネリアスが書いたのか?」

殿下が私に問う。疑ってる事間違いなしだ。



ほら!!だから言ったじゃないですか!!そう私は旦那様に心の中でツッコミを入れた。

だって……この手紙は旦那様に言われて私が書いたものだからだ。疑われて当然と言えば当然だろう。


旦那様の筆跡に似せるために何枚の便箋を無駄にしたか分からない。書き上げるまで寝かせてもらえず、すっかり寝不足だ。

欠伸を必死に我慢するも、目からは涙が自然と溢れる。……生理現象はどうにもならない。


しかし……



「あ……すまない。こんな手紙を貰って一番辛いのは奥方だな。だが……コーネリアスは何を考えているのか」


殿下は私の赤い目と頬に流れる一筋の涙を見て、私が泣いていると勘違いしてくれたようだ。


「はぁ……何を考えているんでしょうね……」


あー!!上手い言葉が見つからない。なんてったって私は嘘が苦手だ。


「まぁ……事件に巻き込まれたわけでも、事故に遭ったわけでもない事だけは分かった」

そう言いながら殿下は手紙を机に置いた。


「あの……捜索隊は……?」


「本人が『捜さないでくれ』と言っているんだ。引き揚げさせるしかないだろう。しかし何故今『精神修行の旅』とやらにに出なきゃならんのだ?しかもあのコーネリアスだぞ?王宮での仕事も公爵としての仕事もほっぽりだして?やはり納得は出来ないが……」


そう言って殿下は腕を組み、机の上の手紙をもう一度見る。


「で、ですねぇ」


「今、あいつが難しい立場なのは、コーネリアス自身理解しているはずなのに……こんな時に……」


殿下が難しい顔をしている。

あぁ……覚悟を決める時が来た。私には言わなければならない言葉がある。……でも言いたくない。言いたくないけど言わなきゃ旦那様に叱られる。ううう……どっちも嫌だ。しかし、これはガードナー公爵家の為なのだと自分に言い聞かせる。


よし!私は改めて気合を入れた。


「あの……王太子殿下にお願いがございます」


「願い?何だ言ってみてくれ」


「……私が旦那様の代わりを務めます」


「は?代わり?どういう事だ?」


「私、ヴィヴィアン・ガードナーをコーネリアス・ガードナーの代わりとして殿下の側で働かせて下さい!」


あー……言っちゃった……。後戻りはもう出来ない。くぅ……本当に泣いちゃいたい。



私は昨晩のもふもふワンコもとい旦那様との会話を思い出していた。



◇◇◇◇◇◇


『君……手紙を書いてくれないか?』


「手紙ですか?誰に?」


『先ずは殿下に。捜索を打ち切って貰おう。でなければ皆に迷惑をかける』


「確かに旦那様は此処に居るのに探したって無駄ですしね」


『その通りだ。私が自らの意思で居なくなった事にしなければ』


「で? その理由は?」


『そうだな……精神修行の旅に出た……とでもするか』

と言った旦那様に私は思わず突っ込む。


「は?そんな理由通用すると思います?」


『仕方ないだろ!良い理由が思いつかないんだ!』


キレ気味の旦那様に私は口を尖らせた。


「私に当たらないで下さいよ!」


『あ……あぁ、すまない。だが今のところは理由を曖昧にしておこう。でなければ色々と細かい設定を考えなければならなくなるしな』


「分かりました。じゃ、便箋持ってきますねー」


私が部屋を出ようとすると、旦那様は慌てる。


『ちょっと待て!良いかうちの家紋の入った便箋なんか持ってくるなよ?無地の物を探すんだ。じゃなきゃ旅先で書いた物だと思われないからな』


「なるほど……言われなきゃうちの便箋持ってくる所でした。流石旦那様ですね」


『……君にもう一つ頼みがあるんだが……不安になってきたよ』


ワンコのくせに難しい表情を浮かべる旦那様の言葉の意味をその時の私は知る由もなかった。





「……妖精姫?妖精姫?」


殿下の声に私は我に返った。


「は?へ?何か言いましたか?」


「いや、さっきから呼んでるんだがボーッとしている様だったから。まぁ、混乱しているのは分かる。分かるが、何故君がコーネリアスの代わりに仕事を?」



これが昨晩旦那様が私に頼んだ『もう一つの事』だった。

私が旦那様に代わり、王宮で側近として働く。その理由は今、私の目の前に居るこの男のせいだ。


旦那様と同じく殿下の側近を務めているウォルター・エリソン。エリソン公爵のご子息だ。現在の宰相には子息が居ない。なので殿下が国王になった時に宰相の候補となるのが、旦那様……とこのウォルター様だ。そう。今旦那様はライバルと宰相の座を争っている真っ最中……という事になる。そんな時に、丸々ウォルター様が仕事を熟してしまうと旦那様の出世に響く……というわけらしい。



「はい……。ですので……」

私はチラリとウォルター様を見る。ウォルター様も怪訝そうな顔だ。


「私を旦那様と思って使っていただければと思います」


「君とコーネリアス……見掛けは天と地程の差があるが……僕としては可愛い君と仕事出来るなら願ったり叶ったりだ。じゃあお手並み拝見といこうかな?」

殿下は私ににっこりと微笑んだ。そして私はもう一つお願いしなければならない事がある。


「迷惑をかけないよう、頑張ります。それで……あのもう一つお願いがありまして」


「なんだい?可愛い娘の頼みなら何でも聞いてあげたくなるね」


「実は……仕事をするのに……犬を……連れてきて良いでしょうか?」


だんだんと声が小さくなる。旦那様の代わりに仕事させろだの、犬と一緒に仕事させろだの……私、殿下に変な奴って思われないかしら?


「犬???それは君の??」


「あ、はい。その……心の安定剤?みたいな……」


私がそう言うと殿下はガタンと立ち上がり机の前に立っていた私の前に回り込むと両手を握りしめた。


「コーネリアスがいなくなってしまって心細いんだね。分かった。コーネリアスの部屋があるから、そこに連れて来れば良いよ」


「殿下!!」

ウォルター様が焦った様に声を掛ける。そりゃそうだ。職場に犬って。



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