⭐︎外伝⭐︎23.5章④『二人のプレシャスな一夜』
***23.5-04
「まぁ、正直、俺の『刻戻り』はうまくいったのもあれば失敗したのもあるからな。……あまり褒められたもんじゃない」
その話の概要はこれまでの『チーム・アッシュ』で分かってたこともあるけど、アッシュがその詳細を話してくれたことで良く分かった。
過去を変える——それは本当に難しくて、一歩間違えれば余計に悪化さえしてしまう。
それを彼は何度も何度も。そう、失敗の恐怖を知りながらも立ち向かってくれてたのだ。
……何だろう。聞けば聞くほど、アッシュはすごい。
失敗した、と言いつつ最終的にはその失敗をカバーするように立ち回っている。
絶対に『約束を成し遂げる』。
そのためにはとんでもない作戦も使ったりしてるけど。
ふと、胸元のネックレスを見る。
紅玉石のアッシュが自作してくれたネックレス。確かにチェーンは歪なところもある。でも、最愛の彼が自ら作ってくれたネックレス。
そして今日、買ってくれた紅玉石の婚約指輪。
アッシュ、ありがと。あなたの想い、すごく感じてる。
えへへ。すっごく幸せ。
の、はずなのにアッシュは聞き捨てならないセリフを呟いたわ。
「ところで……今日のってデートだったのかな?」
ピシッ
ほー。アッシュは今日一日、デートかどうか分からず行動してた、と。はーん、そーだったの。ふーん。
アッシュ……。
「…………アッシュは、今日ずっと私と一緒だったのに、デートだと思って無かったの?」
ふふふ、そーよねー。で無ければセレスさんとのデートの時に『初デート』とか言ってないわよねー。……あの時、どれだけ悲しみに打ちひしがれたのか。
アッシュは知らないのよね……ほんと、バカ。バカよバカ。大バカよ。
アッシュったら、『そうなのか?』的な感じで冷や汗たらしてるけど。……知らない、バカ。
でも、本当に馬鹿なのは私かもしれない。
こうして幼馴染みの立場でアッシュに色々ガミガミ言ってるけど…………彼の魅力に気づいた人たちがこれからもどんどんと増えるかもしれない。
それは良いことなんだけど……でも、私のアッシュが皆に取られる気がして。多分、それは私のワガママなんだろうけど。
今日は決意してきた。
婚約者として。アッシュの婚約者、未来のお嫁さんとして。
そうなる……そのための一歩。
じっと正座して反省の意を見せてるアッシュ。その膝がぶるぶる震えてるけど。もう。
アッシュ。
……好きよ。
あなたのことがずっと。これからも。
だってあなたは私の英雄だから。
だから……愛してる。
だから……来て、アッシュ!
私は想いのたけを伝える。
これまでの全て。
そしてこれからの想い。
愛しの彼が私とともにいる。二人を隔てるものはもう何もない。
互いに生まれたままの姿で向かい合う。
アッシュ。
もう、離れたくない。
これからはずっと一緒なんだから。
チッチッチっと鳴き声が響く。
ミリーのカナリヤってここだと結構、声が通るのね、と思いつつ。
アッシュ……好き。
そんな愛しの彼はいつもと違い、戸惑いながらも私の頭を撫で続けてくれて……。
裸同士の身体で互いの体温をじかに感じてる。アッシュの胸の鼓動も。ふふ、ドキドキ言ってる。きっと私のも。
目が合うたびにキスが繰り返される。
アッシュ……えへへ。ほんっと大好き。
こんなにもアッシュを近くに感じれる。……今日からまた仕事が始まるだなんてちょっとイヤになっちゃうんだけど。
「んーすまん。そろそろ起きるか」
何度目かのキスのあと、アッシュは頭をもじゃもじゃと掻きながらそう言うのだけど。
うふふー。
わかってるんだけど、直ぐには切り替えられないかも。
最後にギュッと抱きしめてくれる。
ああ。アッシュ、愛してる!
アッシュのお家からの初出勤。
んふふー。
彼の腕に左手を絡ませながら辻馬車の待合所へ。
これよこれ。ずっと夢見てた朝の出来事。
愛する彼と共に腕を組みながらの朝の出勤。
えへへー。
アッシュとるんるん気分で行った辻馬車の待合所にはミリーが、元々まん丸な瞳を更に丸くさせて驚いていたわ。
それはそうよねー。
何やら私たちに聞こうとしたところに、ガシャガシャと音をさせて辻馬車が到着しちゃってた。
そのため、皆で中に乗り込んでー。
でも落ち着く前にミリーちゃんはニコニコ笑顔を見せつつ、問いかけてきたわ。
「ね? ね? これはレイチェルお姉ちゃん、二人はすごーく仲が進展したのかな? かな?」
「えへへ……うん。ありがと、ミリー。そうなの」
そう言って、ミリーにそっと左手の紅玉石の指輪を見せてみる。
ふふふ、見て見て!
「え? ……左手?」
「うん。私たち、婚約したの」
これには流石のミリーも、ポカンと口を開けて一瞬、言葉を失ったみたい。
数刻後。
「ええーーーッ!?」
あのミリーからとは思えないくらいビックリな大声だったわ。周りの乗客へごめんなさいと謝罪してから、小声で続きをお話しすることに。
「そ、そうなんだー。それは流石にミリーもビックリだよー。だけど、本当に良かったー。レイチェルお姉ちゃんおめでとう! アシュレイお兄ちゃんも」
小声だけどミリーは満面の笑顔で私たちを祝福してくれたの。
うん、本当にありがとう。ミリーの応援が私の背中を押してくれたのよ。
すっごく感謝してる。
「うん、ありがとう。ミリー」
こんな一言じゃ、返せないかもだけど。あなたが私たちの幼馴染みで本当に良かった。私たちの大事なミリー。血は繋がってないけど私たちの大切な妹だって思ってる。
なんだけど、そのあとが少し変だった。
「……それで、なんだねー。うんうん……うーん……」
何やら納得した顔で頷くミリーなんだけど、ちょっと顔が赤く耳までピンクに染まってる。
ど、どうしたのかしら?
「えーとね……アシュレイお兄ちゃん、多分だけど、窓はしっかり閉めといた方が良いと思うの」
何やらジトーっと咎めるような目つきでミリーはアッシュを見つめてた。
窓? 閉めといた方が……?
え? も、もしかして!?
「あの、ね。あまり音が漏れるのは良くないと思うのです……」
え、え、えぇーッ!?
ちょ、ちょっと待って待って待ってよ!?
そ、その『音』って……な、何の!?
つい、疑念が言葉になって出ていたわ。
「み、ミリー、もしかして……昨夜って……何か聞こえたり……してたのかしら!?」
「…………」
赤い顔で無言のまま頷くミリー。
あああーーッ!!
もしかして……あの声も、あれもこれも!?
あ、アッシュぅ〜ッ! 絶対許さないんだからッ。
この後、流石に反省しきりのアッシュにキチンとお仕置きをして……はぁ、普段の日常生活全般は全然抜けてるんだから私がちゃんと見ておかなきゃいけなかったのよね、彼のこと。
これは私も反省よ。
ここ一番という時はすごいクセにいつもはダラダラなんだから。
でもだからこそ私は彼を信じてる。
彼は、アッシュは必ずやり遂げてくれる。
そんな彼を私は信じる。そして愛してる。
いつか……いつかもし私が彼を助けれる時が来たなら。
私の全てを捧げてみせるわ。
好きよ、アッシュ。
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