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刻の輪廻で君を守る  作者: ぜのん
《第4部》『偽天使は怨讐に踊る』
78/116

22章②『偽天使にアベンジングな我ら』

***


「アッシュ! ……ゴメン、飛び降りた時に、左足を……」


 苦痛の汗を流すレイチェル。


 すかさず、倒れこんだレイチェルの前に回り込んで立ちはだかる。





「クハハ、足を痛めたか。運は俺に味方したな」


 庭園を警護していた憲兵達もこちらに来ているにも関わらず、もうヤツは気にしていない。


 目の前に立ちはだかる俺さえも越えて、その視線は、地面に倒れ伏すレイチェルのみを捉えていた。





「計画が狂ったか……だが、お前達の存在こそがこの世界の歪み! 娘を失えばその歪みも消える!」


 狂気の笑みを浮かべるシクルドは、立ち塞がる俺を無視してレイチェルに襲い掛かり——





 何かに足を引っ掛け、地面に倒れ込む。





「クッ、これは一体!?」





 そう、俺の身体を無視して踏み込んだヤツの足を捉えたのは。





 セレスさんとのデートの時に、足元を取られてしまった、地面から盛り上がった木の根っこ。





 それを悟らせぬよう、俺自身の身体とマントでカバーしていたのだ。






「チッ! こんなもので……」


 その時、冷たい声が庭園に響く。


「もう、遅いわよ。シクルド」


 すかさず立ち上がるシクルドの喉元に突きつけられたのは、セレスさんの細剣。


 俺の、あの叫び声でこちらに回り込んでくれたのだ。




 セレスさんは、レイチェルを庇うように立ち位置をズラす。




 シクルドの周囲を、憲兵達も取り囲む。




 形勢逆転だ。




 チラッと見た時計塔の文字盤は、10:32




 だが、ヤツはこの劣勢に、フと不適な笑みを浮かべる。


 何か来る。


 しかし、事件後の調査で、ここには例の空中浮遊の仕掛けが無いことは判明している。


 では、その場に仕掛けの要らないものなら……






「気をつけろ! 例の炎だ」


 俺の言葉が終わらないうちに、辺り一面を、あの炎が覆い尽くす。





 くそ!


 ヤツめ、この隙に逃げる気だ。


 ここで逃せば……『刻戻り』中は実体が無いことを知られた以上、次はもう、抑えられない! 


 ここで、この『刻戻り』中にヤツを捕らえないと!




「イワン! シクルドを逃すな!」




 ヒュンッ




 屋上から放たれた、その石礫(いしつぶて)は、シクルドの右足を正確に貫いた。









“ミゼル、あの悲鳴が聞こえた時の位置から10分以内にイワンを連れてくることは可能か?”


“えー、オイラじゃなくってイワンの方を頼るのォ? ……距離的にはギリギリかなァ”


“ミゼル、ありがとう。助かる”


(あん)ちゃん、次はオイラを直接、頼ってよね”


“ああ、そうさせてもらうさ”







 そう、ミゼルが間に合わせてくれたのだ。


 イワンの石礫(いしつぶて)に撃たれ、もんどり打って倒れるシクルド。






「クッ、おのれ……」


 倒れながら振り(かざ)す曲剣が、セレスさんの細剣で弾き飛ばされる。




 そこへ、


「これで、終わりなのだー!」


 通路の穴から庭園へと飛び降りたバルが、シクルドに空中からダイブする。





「グハァッ」


 その巨体に押し潰され、シクルドは遂に悲鳴を上げる。




 やった、か……




「アッシュ……ありがとう。私、本当は怖かった……でも、やっぱりアッシュが来てくれた……」


 振り向くと、レイチェルはその目の端に涙を浮かべながら、上体を起こしていた。


 レイチェル……良かった。本当に……


 俺は……レイチェルの心の傷を救えたのだ!





「やっぱり、アッシュは私の『英雄』だった。だから、私、アッシュのことがずっと……」







 リーンゴーンリーンゴーン……


 時計塔の鐘の音が鳴り響く。


 視界の端、時計塔が指し示すのは、


 10:35



 俺に何かを伝えようとするレイチェルが、そしてセレスさんやバルが、皆が、灰色のモノクロームに染まり、全てが静止する。




 世界が反転していく。


 世界が反転。


 …………










 ここは……


 辺りを見回す。


 ガシャガシャと車輪の音が(こも)るってことは、馬車の中か?


 懐中時計で確かめると、時刻は




 16:50




 まぁ、分かってたけど。




「急に、時間なんか確かめてどうしたの?」


 ふと、声を掛けてきたのは隣に座っていたレイチェルだった。


 てか、ここは辻馬車の中だ。


 土曜の、この時間だからか、中の客は俺とレイチェルだけ。


 そのレイチェルは……そう、レイチェルはモノクルの奥にいつもの、つぶらな紅玉色の瞳を輝かせて俺を気遣うように問いかけてきた。


 それは、あの心の傷を負って、男への恐怖に(さいな)まれる姿では無い。


 俺は……やり遂げたのだ!


「レイチェル! 良かった……レイチェルぅ……」

「ちょ、ちょっと! 他に誰も居ないからって、急にどうしたのよ!? ……アッシュ、泣いてるの?」


 俺はレイチェルを抱きしめたまま、声を出さずに泣いていた。止まらなかった。


 レイチェル……俺の大事な人。


 今、彼女は戸惑いながらも笑顔を見せてくれる。笑ってくれる。


 これが、この日常が、どれだけ貴重で大切だったのか。


 俺は、このレイチェルの笑顔を取り戻せたのだ。


 こんなに……こんなに嬉しいことはない。





 感極(かんきわ)まって抱きしめた俺を、レイチェルは少し困ったように、でもゆっくりと、そのまま抱きしめ返してくれていた。





「でも、本当にどうしたの、アッシュ?」


 俺たちの家へと向かう馬車の中、レイチェルは当然の疑問を呈した。


 うーん、それには何とも答え難いんだがなぁ。


 どちらかと言うと、俺の方が色々と聞きたいことがある。


 何せ、『刻戻り』で過去を修正すると、戻ってきた間が、どうなってるのかがさっぱりなんで。


 そもそも、土曜に俺とレイチェルがこうやって出かけてたのは何だったのか。


 なので、俺の疑問を確認するとレイチェルはそれに答えてくれた。






 やはりなのだが、昨日のシクルド達のレイチェルへの襲撃は未然に防いでいたらしい。


 ただ、その理由なんだが、何やら暇してたセレスさんが俺を連れて裁判所内をアチコチ回っていたんだと。


 で、例の隠し扉に気付いて好奇心から開けてみたら、そこでレイチェルを襲うシクルド達と、ばったり出くわしたらしい。





 ……今回もやたらと適当だな、過去改変。





 当然、多勢に無勢もあったのだが、騒ぎを聞きつけたバルやミゼル、更には何故か近くを通りがかったユリウスまでが参戦。


 いや、お前、本来は近くにおらんだろ。またかよ。


 で、黒マント達だけでなくシクルドも捕らえたとのこと。


⭐︎⭐︎⭐︎

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