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刻の輪廻で君を守る  作者: ぜのん
《第4部》『偽天使は怨讐に踊る』
77/116

22章①『偽天使にアベンジングな我ら』

***


 世界が反転し、俺が気が付いたのは——


 予想していた通り、例の隠し部屋の中に出現していた。




「あなた達、裁判所の中にまで!? でも、ここは憲兵隊が取り囲んでるのよ。諦めて武器を置きなさい!」

「ハッ! この状況下でまだ回るか、その口。だが……その威勢、どこまで保つかなァ……ククク!」




 黒マント達とシクルド……ヤツらに取り囲まれ、壁際に追い詰められつつも、レイチェルはいつもの強気な啖呵(たんか)を切っている。


 だが、その表情は強張(こわば)っており、虚勢(きょせい)を張ってるのが見え見えだった。


 ——レイチェル。


「……あなた達なんか、アッシュが必ず倒してくれるわ!」

「フハハ! これはこれは、壊し甲斐のあるオモチャだな。……良いだろう、男の恐ろしさを味わうがいい!」


 その意味に気付いたレイチェルが逃げ出そうとする。


「無駄だ!」


 黒マントがレイチェルを羽交(はが)い締めにしようと手を伸ばした瞬間、




 その合間を、俺の抜き放った細剣が斬り裂く。




「なにィッ!? 貴様、何者だ!?」


 黒マントが怯んだ隙に、身体を滑り込ませレイチェルの盾に。


「え? ……アッシュ!?」




 そう、レイチェルですら、一瞬、分からなかったのは、俺が黒マントとフードで顔を覆い、ヤツらと同じ格好をしていたからだった。





 憲兵隊や『バルスタア団』、更にはワルターさん配下の聖十字騎士団の配置を何度も確認するも、一番近いのはあの時の悲鳴に反応した俺とセレスさん、バルとミゼルしか居なかった。


 それさえも、例の本棚にカモフラージュされた隠し扉で辿り着くには数分かかる。


 で、あるならば。


 この、『刻戻り』中の実体のない俺のみで、レイチェルを救わなければならない。


 だから、これは『賭け』だった。




 ——『刻戻り』中、怪我は無くなるが、着ていた服や事前に身につけていた物はそのまま持っていける。


 それは、以前に右腕や肩の傷を負った際、怪我は消失するも、巻かれていた包帯がそのままだった事実から『推定』していた。




 なので、ヤツらの背後、同じ黒マントで出現した俺の存在に、レイチェルの前へと飛び込むまで気付かなかったのだ。







 細剣を(かざ)して、レイチェルを背後に庇う。


 そして、レイチェルに、アレを見せた。


「コレを見て、先の廊下へ行くんだ。あとは俺に任せろ!」


 それは、例の“廊下に張り巡らされた無数の罠と隠し出口が書かれたメモ”。


 俺が持つメモ自体は、実体が無いから手渡せない。


 だが——


「!? うん!」


 この天才少女なら、その一瞬で全てを理解、記憶する!


 レイチェルだからこそ、このやり方が通じるのだ!







 身を(ひるがえ)して廊下へと走り出すレイチェル。







 追いかけようとする黒マント達の前に、細剣を突き付ける。


「殺したい相手まで揃って来てくれるとは。ククッ、喜ばしいぞ、阻害因子」


 当初、驚愕の表情を浮かべたシクルドだったが、俺以外に助けが来ないことを理解すると、むしろニヤニヤと笑みを浮かべる。


 廊下の無数の罠が、レイチェルを捕まえると思っているのだ。






 そうさ、そうやって自分に(おご)ってやがれ。


 少しでも、レイチェルが逃げる時間を稼ぐのだ!







「死ね」


 シクルドの曲剣が舞う。


 その切っ先が俺の身体を捉え——そして、構えた細剣ごと突き抜ける。


「なんだ、これは!?」


 今だ!






『レイチェルがシクルド達に襲われてる! バル、ここの隠し部屋の中に来い! セレスさんはこの前の噴水の所へ! ミゼルはイワンを屋上に連れて来てくれ!』







 壁を越えて、辺りに、広場にいるバル達にまで聞こえるように大声で叫んだ。







「チッ、そういうことか……コイツ、実体が無い。『今』の時間軸の阻害因子では無いということだな」


 シクルドは苦々しげに言い放つ。


「コイツを無視して、あの娘を捕えろ」


 くそッ!


 遂に……バレてしまったか。


 『刻戻り』中、シクルドに実体が無いところを見せてしまったのは、最初のリアン誘拐と今とで2回。


 ヤツが、『刻の揺らぎ』で複数の時間軸を認知できる以上、俺の実体が無いことに気付くリスクは充分、認識していた。


 この“実体が無い”ことを知られた以上、もう今後はヤツに対し、俺は打つ手がほぼ無くなるだろう。


 だが、それでも——





 ここで、レイチェルを救う!








 俺を無視して廊下へ、レイチェルを追いかける黒マントどもの目前に回り込んで、その大きなマントを左右に押し広げる。


 ヤツらの視界を奪うように。





 そんな俺を無視し、黒マント達はレイチェルを追いかけようとして、





 クンッ





 その足元をワイヤートラップが無慈悲に襲う。





「!?」


 『あり得ない』、と声を出さぬまま倒れ込む黒マント。


 続く別の黒マントにも、トラップの飛び矢が突き刺さる。




 この廊下には無数の罠が張り巡らされていた。


 実体の無い俺には問題ないが、ほんの少しでも歩みを間違えれば、無数の罠が牙を剥く。



 例え、自身で仕掛けた罠だとしても、こうやってマントで視界を(さえぎ)られた中で罠に掛からず進むには、あまりに困難な数。





 だからこそ、レイチェルがその罠に全く引っ掛からず通り抜けるなど、考えの範疇外(はんちゅうがい)だったのだろう。


 そして、まさか自身がその罠に掛かろうなどとは。





「アシュ氏ー! 助けに来たぞなー!」


 入り口の方でバルの声がした。


 よしッ





「ふざけた真似を! お前達はデブの相手をしろッ。 娘は俺が捕える」


 やはり来るかシクルド。





 ヤツらの視界をマントで遮ったまま、視線を動かさず背後に叫ぶ。





「行け、レイチェル! 出口から飛ぶんだ」

「わかったわ」


 数瞬して、ガラガラと壁が崩れる音。





「逃すか!」


 駆け出すシクルド。


 くそッ





 目の前をいくらマントで(さえぎ)ろうと、その足取りは正確に罠の無い箇所を選んでいる。





 並走する俺のことなど、既に見てはいない。





 ヤツが見ているのは——通路の壁が崩れ落ちた出口から、今、まさに飛び降りようとするレイチェル。





 シクルドの曲剣が(きら)めき、振り下ろされる!





 その直前、レイチェルは壁に開いた穴から咄嗟(とっさ)に飛び降りた。


 その眼下にあるのは、例の文化遺産の庭園。





 だが、追い掛けるシクルドも、そして並走する俺も同じく飛び降りる。





 先に飛び降りたレイチェルは必死に走るが……なんだ? 走り方が……変だ?





 無理に走ろうとして、そして、足がもつれて地面に倒れてしまった。


 まさか、飛び降りた際に足を(くじ)いたのか!?


⭐︎⭐︎⭐︎

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