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刻の輪廻で君を守る  作者: ぜのん
《第4部》『偽天使は怨讐に踊る』
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18章①『交錯するプログレッシブな話し合い』

***


《ウフフ……》

《アハハ……》

《フフフ……》




 脳に直接響き渡る笑い声。




 ——これは……夢だ。




 ぼんやりする思考の中でも感じる。


 『刻戻り』の時に現れる天使達。いや、コイツらは『天使似』なのか?




 青い燐光(りんこう)(まと)った少年少女達が俺を取り囲んでいた。数人どころではない。2、30人ほどなのだろうか。


 銀髪と黄金色の瞳の彼らの顔にはそれぞれ、耐え難いほどの苦痛と悲痛さが刻まれているように表情を歪ませている。


 痩せ細った手足、衣服の切れ端が風に揺れ、その姿はまるで亡霊のよう。


 その、何の意思も写さない虚ろな瞳で皆、俺を見つめ続けている。






《君は……いや、君たちは遂にここまで辿り着いた……》


《この町の嘘……この町が私たちを切り捨てた罪に……そして、闇に……》


《君も、この罪深い“鎖”を断ち切るのか、それとも新たに繋ぐのか……》


《闇は、君たちを…この町を、いや世界を覆い尽くそうとしている…》


《私たちとの契約を果たしなさい……》


《嘘には真実を……》


《罪には罰を……》


《闇には……(あがな)いを……》


《君たちが……この町がやり直せるのはもうあと僅か……》


《私たちは“真実”が眠る約束の地で待っている……》


《時計塔の影、その“地下室”で……過去の罪を暴きなさい……》


《初代が残した“鎖”を解き放つのは君たちの役目だ……》


《辿り着きなさい、全てを壊す為に……》


 ——そして……やれるものなら、私たちの手から救ってみせなさい、この町を!!




 瞬間、俺にあてられたのは限りない憎悪の感情だった。


 今まで、何の意思も持たなかったはずの虚ろな両の瞳が皆、憎悪の火を灯していた。


 ——俺の姿を写して。











「…………」


 何だろう。


 ベッドから上半身を起こす。


 朝の目覚めは最悪だった。


 なんか、こう……悪夢を見たはずなんだがその内容が覚えてない感じ。でも、むっちゃイヤーな夢だったよーな。


 うーん……もうすぐ週末だから疲れが溜まってたのか?


 まぁ、そんなこと言うとレイチェルあたりに『アッシュのお仕事は何も疲れるようなことなんてしてないでしょ!?』とキレられそうだが。


「取り敢えずは出る、か」


 懐中時計の時刻は7:10。とっくに時計塔の鐘は鳴っている。急がないと馬車に間に合わなくなる時刻。


 朝食はパンを片手に取って馬車の中でとることにする。


 これもまたレイチェルに文句を言われそうだが仕方あるまい。時間短縮の生活の知恵である。





「また、ギリギリまで寝過ごしてたの、アッシュ!? ……寝癖も直ってないし」


 俺が来るまで待合所で待っててくれたレイチェルとミリー。予想通り、早速の呆れ文句から朝の会話は始まる。


 まぁ、朝のこの時間帯だと馬車の利用者が多くてぎゅうぎゅう詰めになるのが嫌なのに、てのはわかるがな。遅れたのは俺のせいだし。


「…………」


 あえて反論せずに片手のパンを口に詰め込んでモガモガしてると、隣でレイチェルは、ハァーッとため息をつくのだった。







 あの裁判から1週間が過ぎた。


『今度の選挙は見ものだねぇ』


『またジーグムント市長に決まってるのではなくて?』


『いや、あのクリフトン判事長が出馬するそうですよ』


『あらあら、あの方が出られるだなんて……』


 馬車の中、老婦人と中年紳士が何やら今度の市長選に関して話題にしてるかと思えば、隣のオッサンが広げて邪魔な新聞のトップニュースは、クリフトン教授の出馬宣言だ。


「レイチェルお姉ちゃんの先生、すっごく有名になってるねー」


 周りの邪魔にならないよう、ミリーが小声で話すのに対し、レイチェルは得意そうに応える。


「そうよ。だって私の恩師であり直接の上司なんだもの。……是非とも今度の選挙でジーグムント市長を負かしてもらわないと」


 そうすれば、これまでの騒動にも終止符が打たれる。


 確かに、理屈はそうなんだが……うーん……


「裁判の行方はどうなんだ?」


 人混みに溢れる馬車の中、俺も周りに聞かれないよう、声はコッソリになる。


「うん、順調。昨日、ユークリッド少尉が孤児院の院長を捕らえたって。……金銭授与の証拠も押さえたみたいよ」


 それは……やるな、ユリウス。


 キケセラへのあの一言、それを反省しての行動……と、ゆーのは考え過ぎかな。


 となると、あとはアルサルトと今の市長、ジーグムントとの繋がりを示すものが証拠としてあれば……








「ところで、アッシュ」


 もーすぐ、中心街に着くというところで、我が妹分は突然、話を振ってきた。


「午前中に今日一日分の仕事を終わらせるから一緒にランチは行けないけど、午後は図書館で待っててね」


 いや、待つも何も俺の職場なんだが……?


「『チーム・アッシュ()』の初会合をするんだから」


 …………はいぃ?


「おい。なんだ、その謎単語は?」

「だから、『チーム・アッシュ()』の初会合よ! リーダーが聞いてないなんてありえないからね!」


 いや、そんな意味不なチームのリーダーになった覚えないんだけど? ……俺の知らぬ間に過去改変でも起こってたのか!?


「アッシュがリーダーに決まってるじゃない。今更の話よね」

「アシュレイお兄ちゃん、頑張ってねー!」

「おい、それは一体なんなのだ」


 と聞き返すも、


「じゃ、また後で」

「はーい、レイチェルお姉ちゃんもアシュレイお兄ちゃんもお仕事、頑張ってなのですー」


 人混みの嵐から解放されようと馬車から出る人波に押されて二人は去って行ってしまうのだった。











 いつもの図書館。我が静寂なる職場。


 屋台で買ったサンドウィッチを司書室に持って帰って食べてるうちに昼休みは終わってしまった。


 ……バルの奴め、遅刻だし。この昼休み中にどこに行ってるのやら。


 と、誰も来ないはずの我が図書館にレアな来訪者としてやってきたのは、


「レイチェル……それにセレスさんまで?」


 やってきたのは例によって黒の法服姿のレイチェルと、何故か白衣を羽織っているセレスさん。何故に白衣??


「アッシュ、ちゃんと待ってたのね。うーん、バル君とユークリッド少尉はまだかな?」


 いや、聞けよ俺の話を。てか、ユリウスまで呼んでるのかよ、レイチェル?


 戸惑っていると、バルが遅刻なのに慌てもせずに堂々と帰ってきやがった。


 これまた、何故かユリウスと一緒に。


 今日は妙な組合せが流行(はや)る日か?


「騎士なんて言ってもまだまだなのだなー、その程度で僕に勝とうなんざ、100年早いのだなー」

「ふん、4本に1本は取れるぞ」


 その発言からすると、昼休み中に何やら二人で練習試合でもしてたのか?


 てか、いつの間にお前ら、そんなに仲良くなった。


「仲良くなってなんかないんだナー。イジメてやっただけなのだナー」

「な、何を貴様ーッ!」


 落ち着けお前ら、ここは図書館だ。












 てか、レイチェルやセレスさんまで揃って何する気なんだよ、これは。


「朝に言ったじゃない!? アッシュ、これから『チーム・アッシュ()』の初会合よ!」


 ……なんだ、その『チーム・アッシュ()』とかいう嬉し恥ずかしネームは。


 会合も何も、なんでここ(図書館)でやるだよ!?


「まぁ、事がここまで重大になってきてるので、ここらでキチンと皆の情報共有をして整理しておこう、というのが趣旨よ、アッシュ君」


 真面目に答えてるとこ、すみませんがセレスさん。結局、なんでわざわざこの図書館でそれをするのかは……


「広いしイスやテーブルも沢山あるし、何より誰も来ないからに決まってるでしょ、アッシュ君」


 ……ぐぅの音も出んわ。


⭐︎⭐︎⭐︎

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