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刻の輪廻で君を守る  作者: ぜのん
《第3部》『恋と横恋慕の法廷闘争編』
55/116

16章③『正義の定義とは』

***



 ここは……どうなってる?


 気がつくと、そこは見知った場所。我が家の玄関先だった。この時期はもう朝は肌寒さを感じる季節。


 遥か遠くにそびえ立つ時計塔の文字盤は、




 6:45




 想定していた時刻を示していた。そして、当然の如く、左肩の傷の痛みは包帯のみを残して消失している。




「アシュレイ……」


 振り向くと、俺の背後、玄関前に立ちすくんでいるのは俺の親父と母親。共に、不安げな表情で俺を見つめていた。


 いや、親父たちだけではない。


 左隣のミリー家からは、ミリーやクリエッタおばさん達も不安な顔つきで俺を見ていた。


 そして……右隣のレイチェル家の前では……膝から崩れ落ちて泣き続けるサファナおばさんを、おじさんが悲壮な顔つきで抱きしめている。


 俺たち、三家族を悲しみの渦に叩き落とした、そいつは……




「アシュレイ・ノートン。サファナ判事と共謀して証拠捏造を行った容疑で逮捕する」


 背後に、第12番隊たち憲兵を引き連れたユリウスだった。










「そんな……レイチェルはそんなことをする娘じゃないわ! 憲兵さん、私たちの話も聞いてください! お願いします」


 サファナおばさんが必死に叫んでいるにも関わらず、ユリウスは全く取りあわない。


 ここに、レイチェルが居ない、ということは今日は早目に家を出たのか。それとも、コイツ=ユリウスに、既にこっそり(かくま)われているのか。


 いずれにせよ、多くの人前であまり確認は出来ない。


「これも任務だ……逃亡すれば余計に立場が悪くなるぞ! …………ここは一旦、オレに任せろ」


 後半のセリフは、声量を抑えて俺にしか聞こえないように。


 ユリウス……?


「わかったな?」

「…………」


 コイツ……この時点から、俺を後で助け出す気でいたのか。


 俺は静かに頷く。


「よし。ではあの馬車に乗れ」


 そう、指示して俺に手錠を掛けようとするユリウスにすれ違い様、耳打ちする。


「……レイチェルを頼む」

「!?」


 そして、例の指示を。


「バルに伝言を。……バルスタア団はレイチェルと、ヘルべの森のゴロー爺の所へ避難するんだ。町は危険になる」


 更に、まだ驚きの表情を、その顔にへばり付かせているユリウスに最後のダメ出しをしてやる。


「お前の祖父、父と戦場の中でさえ示して来た、女性・子供たち弱き者を守る騎士の正義、お前の中にあると信じてやる。だから、俺を……信じろ!」

「な、なぜそれを……!?」

「静かに……普通にしてろ」


 俺の言葉で、ハッと自身を抑えるユリウス。


 だが、その目は驚愕の色で彩られていた。


 頼む……俺を、信じてくれ!


「ほれ」


 両手を揃えて、ユリウスの前に突き出してやる。


 “このまま逮捕しろ”という意思表示。それは、とりもなおさず、“お前のことを信じてやる”という意味なのだが……。


 ユリウスは真剣な面持ちで俺を見つめ……わずかに頷く。


「……必ず、後で……」


 助けに来てくれる、か。信じてやるぞ、ユリウス。


 そして、ユリウスは俺の両手に、自ら手に持つ、その鉄の手錠を掛けようと……




 ガシャン!




 手錠は、俺の腕を素通りして地面に落ちてしまった。











 ……あー、こ、これは……実体が無いことをど忘れしてしまってたぞ……う、うーむ……。


「な、なんだ、コレは!?」


「ま、まぁ、あまり気にするな。俺自身が馬車に乗って牢屋まで行くからさ。それで良いだろう?」


「ふざけるな! なんだと聞いている、アシュレイ! なんで手錠がすり抜けるんだ!?」


 えーい、うるさい。兎に角、乗ってしまえ!


 牢屋行きであろう憲兵隊の馬車に、自ら乗り込もうとする俺に、憲兵たちも動揺しながらも馬車の扉を開け、中に招き入れる。


「おい! 貴様、話を聞かんか!?」


 そんなもん、ここで説明できるわけがなかろーが。『刻戻り』中で、実は実体が無いんですー、とか。


 しつこいぞ、ユリウス!


「さっきのは何だ、と聞いておる!」


 そんなことは、どうでもいいわい!


 ……それよりも、ちゃんと伝言、頼んだぞ。







 リーンゴーンリーンゴーン……


 時計塔の鐘の音が鳴り響く。


 馬車の小窓から見えるその文字盤は、




 7:00




 俺に食ってかかるユリウスが、あらゆるものが再び、灰色のモノクロームに染まり、全てが静止する。




 世界が反転していく。


 世界が反転。


 …………
















 ここは……一体……


 木の板張りで出来た部屋。


 例によって左肩の怪我はやはり消えていた。


 部屋の隅にあるのは記憶にある黒い鉄のストーブ。


 懐かしい、でも最近も見たことのあるその山小屋の中を、たくさんの子供達がそこかしこに好きなように駆け回っている。その中にはリアンの姿もあった。


 子供たちの中心にいるのはゴロー爺。


 子供好きだからだろうなぁ……囲まれて、いつになくニコニコしている。


 しかし、これは一体……。


 思わず懐中時計で時刻を確かめる。




 13:15




「どうしたの、アッシュ? ボーっとして」


 その声は……


 振り向いた先にいたのは……レイチェルだった!


「レイチェル! 無事だったのか!?」

「きゃぁッ! ちょ、ちょっとビックリするじゃない!」


 思わず、レイチェルの手を取ってしまった。


 ……でも、本当に……良かった……。


 例の冤罪騒動から、無事なレイチェルを見れたのはようやく、だったから。……本当に、心配で……もし、おれの大事な妹分が守れなかったら、と。


 本当に。良かった……


⭐︎⭐︎⭐︎

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