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刻の輪廻で君を守る  作者: ぜのん
《第3部》『恋と横恋慕の法廷闘争編』
49/116

14章③『突然のトリッキーな騎士様の頼み事』

***


「………………わかった。『刻戻り』で過去改変をするしか無いな」


 しかし、本当に過去改変をしても良かったのか。……また、前みたいに改悪になったりはしないのか!?


 決断する瞬間、心の中に微かな不安がよぎる。もし、この決断が失敗に終わったら……いや、そんなことを考えてる場合じゃない。


 レイチェルのためだ!


「本当か!? アシュレイ、君には本当にいくら礼を言っても言い切れない」


 と言って、ユリウスは俺の前に片膝をつき、拝礼の仕草をする。


「お、おい。何もそんな……」

「オレがしたいのだ。騎士として最上級の感謝を」


 ……別に、お前の為にやってるわけじゃ無い。レイチェルの、俺の大事な妹分の為だ!


「ああ。それで良い。……必ず、この礼はさせてもらう」


 ……なんか調子、狂うなぁ。











 16:52




 既に時刻はギリギリだった。


 あと数分しか無い。


「……本当に、あの時計塔が過去に戻れるというのか?」


 いや、お前、俺に頼み事をしといて、何故に疑問なんだよ……。


 若干、肩の力が抜けてしまいそうになるのを抑えながら、自分に言い聞かす。


“絶対に、前の様な間違いを起こしてはならない”


 過去を修正しようとして、リアンが攫われる、といった最悪の事態のようには。




 させない!




 と、時計塔の文字盤が、映し出す。




 16:55




 が、その瞬間、文字盤は今と異なる時間、




 10:55




 目的の時刻を指し示す。


 その文字盤と針先には再びあの青い燐光が灯される。


「こ、これが、『刻戻り』と言うのか!?」


 今回は、コイツにも認識出来るようになっているみたい、だな。


 これまでの『刻戻り』への皆の認識の違い、それらを『観察』し、『分析』した結果、『推定』としては、恐らく『刻戻り』という事実を認知した者のみその認識が可能となる。恐らくはその筈だ。




 世界が、図書館の中が再び淡いモノクロームの灰色に染まっていく。


 俺も、ユリウスも、全てのものが静止し、全ての音が失われる無音の世界。


 そこに彼らは再び現れる。




《ウフフ……》

《アハハ……》




 頭の中に響く笑い声。


 灰色の静止した世界。灰色一色に染まる図書館の中で、青い燐光を纏った彼等=天使達がゆっくりと天井から舞い降りてくる。




《君は契約に基づき、僕たちを呼び出した……》


《君が守りたいモノのために……》


《世界を、その事実を、過去すらも自らの意志で変える為に……》


《ならば、見せるんだ、僕たちに……》


 ——君の想いが、本当に守りたい者を守れるのか




 瞬間、世界が反転した。












 ……ここは?


 何やら忙しなく、兵士達が行き交うこの広場は……。


 彼方に見える時計塔の文字盤は10:40


 見覚えもある、ここは一体。


「アッシュ? こんなところでどうしたの?」


 俺の前に居たのはいつもの黒の法服に左眼のモノクルをまとったレイチェルだった。


 なるほど。


 あたりを見渡す。


 ここは憲兵隊本部の玄関前だ。門番が出入りする者を見張っている。


 そしてレイチェルはちょうど今から中に入ろうとしている所だったのだろう。その手に自身の身分を明かす“名入りの黒鷲の紋章”があった。


 ——憲兵隊本部内の留置場で、アルサルトの『証拠の本』を受け取る為に。




 そして、俺は冤罪騒動の元となる、その受け取りを阻止する為に、ここに、過去に帰ってきたのだ。




「レイチェル、聞いて欲しいことがある」

「う、うん。どうしたの? アッシュ。わざわざこんな所まで私を追い掛けてきてなんて」




 俺の言葉をレイチェルは真剣に受け止める。


 そうなのだ。


 この大事な妹分は俺のことを、何時でも何処でも疑いなく信じてくれる。




 何も、物理的な影響を及ぼすことの出来ない『刻戻り』の中で、このレイチェルの俺への信頼だけが、本当に過去を変える力となる。


 レイチェルが居てくれるから。




「ああ。実は、今からレイチェルが手に入れようとする本は、手に入れてしまうと……」




“違法捜査の容疑が掛けられ追われる事になる”




 続く言葉は、実際の言葉にはならず、俺の口の中でとどまるのだった。


 ……そうだった。


 未来に生じる確定事項をそのまま伝えることは出来ないんだった。くそッ。




「本? アッシュ、アルサルトの趣味のこと、知ってたの?? それがどうしたのかしら?」

「ああ……うーん、それなんだが……」


 うーむ、どうレイチェルに説明すれば良いのやら。


 俺の大事な妹分は、そのつぶらな紅玉色の瞳で俺を見つめ続ける。そこにあるのは相変わらずの、俺への無二の信頼。




 ……やはり、レイチェルには正直に言うべきだ。


 俺を、心の底から信じてくれるレイチェルには。


 俺は、何も取り繕わない。




「レイチェル、俺の言うことを聞いて欲しい」

「……うん。こういう真剣な時のアッシュは必ずやり遂げてくれる時だから。……信じるわ。私の『英雄』だもの」




 レイチェル……。


 本当にありがとう。




「今から、アルサルトの本を手に入れようとしてるのだと思うが、それを“今、手に入れる”のは諦めて欲しい。……詳しくは言えないが、危険な事が起こる可能性が高いんだ」

「危険!? それは一体……」

「すまん。それは……今は言えない」


 俺の言葉に、レイチェルは一瞬、考え込むが、


「うん、わかった。アッシュが言うなら。信じるわ、アッシュを」


 そう。こんな無茶な発言でもレイチェルは俺を信じきってくれるのだった。


「ありがとう、レイチェル」

「ふふふ、アッシュの言う事だもの。私は信じてる」


 そう言って微笑むレイチェル。











 リーンゴーンリーンゴーン……




 鐘の音が鳴り響く。本来の鐘の時間ではないこの時間に。




 指し示すのは10:55




 レイチェルの微笑みが、世界が灰色のモノクロームに染まり、全てが静止する。





 世界が反転していく。


 世界が反転。


 …………














 ……で、ここは一体どこだ??


 『刻戻り』を終えて現在に帰ってきた筈だが、そこは妙な場所だった。初めて見る場所…………部屋?


 床は一面石畳で、家具も何もない殺風景な部屋。窓は灯り取り程度に僅かにしか開いておらず、鉄格子まで入ったそこから覗く時計塔の針は17:10。


 壁も三面がレンガで覆われ、床や壁からの冷え込みが半端なく有り得ない。


 そして、唯一、壁じゃ無い一面には天井から床まで届く無数の鉄格子。


「………………」


 そこにある扉っぽい所を押してみるも当然、開かず。……鍵が掛かってる?


 えーと、これは……




 もしかしてなんですが、俺、牢屋に入れられてる!?




「何じゃこりゃぁッ!!」




 何で、こんなことになっとるんだーッ!?


⭐︎⭐︎⭐︎

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