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刻の輪廻で君を守る  作者: ぜのん
《第3部》『恋と横恋慕の法廷闘争編』
48/116

14章②『突然のトリッキーな騎士様の頼み事』

***


 件の本と同じ本はすぐに見つかった。




『天の川の光はすべて星』




 何やら詩集のようだが。あの脂ぎったオヤジが詩集を読んでる姿なんて思いつかんぞ。




「破られたページには何が書かれているのかしら」


 とは、セレスさん。


 手にとって見比べてみる。




“天の川に流れる多くの星よ。あなたの中に私の声は聞こえますか?”




 ……やっぱ詩だよ、ポエムだよ、これ。



 

「……普通に詩集、なのかしら」


 レイチェルも同じ2冊の本を見比べてみるが、やはり頭に疑問符が浮かんでいる様子。




「他も見てみるか」

「ええ。そうね。アッシュ、確認してみて」




 次の破られてるページは、と……




“死にたくなるほどの想いを、愛を抱えて、あなたに会いたい。愛くるしいあなたに”




「…………」

「…………」




 次だ次!




“二番目だっていい。私はそんな立場の女。それでも貴方のことを想い続けるの”




“野原に秋桜が、貴方と過ごした思い出に——”




“これまでの貴方とこれからの私、共に生きられなくても貴方を想い続けてる”




 な、なんだこのポエマーは……




「恋愛の詩、のようね……アッシュ君」


 いや、それはまぁ、分かるんですが、セレスさん。


 問題は何でアイツがこんな恋愛の詩集なんかを読んでたか、と言うことと破られたページには何が関係あるか、なんですが。




“貧しさや地位が私たちを分とうと、それでも私は貴方を変わらず愛してる”




“眠りの中でしか貴方に会えなくても、それでも想いは途切れない、この愛は”




 愛愛アイアイ、なんじゃこりゃ。いかん、読めば読むほど、むず痒さが走るんだが、これ。


 ……まだ読むの?




“靴裏には貴方からのメッセージ。決して表には出せない。私だけのメモ”




“似ているわ、彼に。だから、必ず帰ってきて、私の元へ”




 ……結局、これが何かは分からんが恋愛の詩集を読書するアルサルト、というよく分からん構図だけが記憶に残ることに。……いらんモノを残しやがって。




「うーん……ちょっと良く分かんないんだけど、取り敢えず、この同じ本を借りてってもいいかしら? アッシュ」

「ああ、貸し出しの手続きだけしてもらえれば構わんぞ」

「ん、ありがと!」




 さ、これで手続きも終わってようやく昼休憩に……







「じゃあ、アッシュ君、今から一緒にランチに行かないかしら? フフフ」


「な! なんでセレスさんがアッシュと一緒にランチに行くんですか!?」


「あら? 私がアッシュ君をランチに誘っちゃいけない理由なんてあるのかしら?」


「そ、それは……そうなんですけど……」




 はぁ……仕方ない。




「じゃあ、今から皆でランチに行きますか……」


 そう言うしかなかった。……バルはとっくに逃げ出してるしな。


「もう! ……アッシュは流されやすいんだから」




 そんなこんなで、レイチェルとセレスさんの間に挟まれて緊張感の漂うランチを過ごすことになるのだった。


 何とかしてくれよ、マジで。









 翌日。


 昨日とは違い、レイチェルもセレスさんも特に乱入してくることはなく、いつもの何もなーい、平和な日常。


 バルと共に怠惰な時間を過ごす。




 これだよ、これ。俺が求めてるのはこういう平和な時間であって波乱万丈はいらんのだ。


 窓から見える時計塔の文字盤は16:10。


「アシュ氏、んじゃ、もう締めますかなー」

「そうだな。どーせ、今日は誰も来ないだろうしな」


 と、言って俺たち司書二人組が締め作業を始めた時だった。









「……アシュレイ、折り入って、君に頼みたいことがある」


 夕暮れの赤い陽の光が図書館内に立ち込める中、やってきたのはユリウス少尉だった。




 ………………。

 …………。

 ……。



 さ、気にせず、作業するか。




「コラ! 貴様! なぜオレを無視するのか!?」


 いや、コイツからいきなり『君』呼ばわりで始まったら、むしろ、むず痒いというか調子狂うというか……バルのヤツめ、あっという間に逃げおってからに。




「……何なんですか、少尉。こっちはちょうど締めの作業で忙しいタイミングなんですけどねぇー」


 だから帰れ帰れー。




「……アシュレイ、君にしか頼めない。真剣な話なのだ」




 …………。




 仕方ない。


 一つ、ため息をつくが、ユリウスに椅子を勧め、座って話す様に促す。




「ああ、ありがとう、アシュレイ」


 コイツに礼を言われるとなんだかリズムがくるうんだが。


「で、何があった?」


 話を聞くしかなかった。




「どこから話したものか……今から話すことは内密に頼む。君を信用して、だ」

「…………」


 あれだけ機密情報の共有に抵抗を示したユリウスだ。これは、一体……?


 恐らくはよほどな内容、ということか。


「今朝のことだ。ジーグムント市長自ら憲兵隊大隊長に命令が下った。『サファナ判事が違法捜査にて証拠の捏造を行った嫌疑がある』と」

「な!? なんだ、それは!?」


 レイチェルが!? 馬鹿な!? どういうことだ!?


 ついこの間の一昨日の話だ! 町全体が礼賛していたのがレイチェルだぞ! 市長自身が表彰してたじゃないか!? そんな事があり得るのか!? レイチェルは無事なのか!?


「待て! ……落ち着け。サファナ判事は無事だ。……オレが安全な所に匿っている」


 ……そうなのか。ユリウス、お前が。


 ありがとう。


「だが、サファナ判事を庇ったクリフトン判事長は、市長の命により逮捕・勾留されてしまっている」

「クリフトン教授までもが、か!?」

「ああ。『共謀の可能性あり』ということでな」


 そんな……クリフトン教授が言っても止まらないのか!?


 これは……予想以上にマズイ、のか。


「職場に居た為、知らないのだと思うが、サファナ判事の実家、君達の家族にも既にサファナ判事に対する容疑と捜査で憲兵隊が一度、訪れている」


 俺の両親やミリーの家族にも、既に憲兵隊達の捜査の手が及んでいる、という事か。


 俺の想像以上に事態は急速に悪化方向のようだった。


 ここまでの状況になるということは、やはりジーグムント市長はアルサルトと共に『敵』、いやその中心と見るべきだな。


 そんな市長に俺が出来る抵抗とは……取り敢えず、来月の投票では絶対に入れんぞ、お前には。


「それで、アシュレイ、君に頼みたい事がある」

「あ、ああ。それは何だ?」

「君には、過去を変える力がある、という事だったな」


 …………。


 前回の、ヘルベの森でのリアン救出作戦の時。流石に、その時に『刻戻り』のことを伝えておかねば話が通らなかったので、伝えはしたのだが。


 ……コイツなら、そんな話は信じないし、適当に忘れるだろう、と思ってな。


 が、どーもそれを信じていたらしい。


「何をしろ、と?」


 今、この場でその話を持ち出すからには、レイチェルへの冤罪の嫌疑に関わる話、の筈。


「ああ。アシュレイ、サファナ判事の冤罪を晴らす為に例の『刻戻り』とやらで、過去を変えて欲しい。……あの本が冤罪の元なのだ。留置場の衛兵からサファナ判事が証拠として受け取る本を阻止して欲しい!」


 本?


 もしかして、それは昨日の例の本か? あの詩集……


「衛兵がサファナ判事に例の本を手渡したのは昨日の10:55と聞いている。頼む! その過去を変えてサファナ判事の冤罪を取り除いてくれ!」




 うーん……




 目の前のユリウスは、俺に頼み事の為に頭を下げている。が、何やら全身がピクピク、震えているが……


 本当は俺に頼み事なんか、したくないってのを無理してやがるな、コイツ。


 だが、このユリウスがそこまで嫌う俺に頼まなければならない事態、ということだ。




 考えろ、アッシュ。


 ここまで、アルサルト、そしてジーグムント市長が強硬姿勢を示す、という事は確かに例の詩集本は有力な証拠になるかもしれん。……それを逆に『刻戻り』で無くしてしまうことが良いのか。


 だが、それと同時に事態は急速に悪化している。レイチェルを匿っている、と言っても俺にこうして『過去改変』を頼みに来る、という事はいつまでも匿えるわけではなく、限界が近い、という事なのだろう。


 例の証拠となりうる『詩集本』がレイチェルに手渡された、という事実。それが無くなれば……今の冤罪騒動も改変される、のか?


⭐︎⭐︎⭐︎

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