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刻の輪廻で君を守る  作者: ぜのん
《第2部》『過去は復讐する』
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12章②『〜〜〜にアベンジングな我ら』

***


 ゴロー爺の山小屋。暗くてよく分からないが昔よりも更にオンボロになってそうだな、これは。


 レイチェルの案内で、トラップ回避に多少は時間は掛かったがようやく辿り着く。


 周囲に……敵は居なさそうだが。


 小屋の窓からは中の明かりが漏れている。


 あの中にリアンが……


「さぁ、助けに行くぞな、リアン」


 そのまま明かりの灯る山小屋に向かおうとするバルをユリウスが止めた。


「貴様、何も考え無しに乗り込む気か!? こういう場合は仕掛ける側と包囲する側の連動を……」

「ンなこと言ってる間に、さっさと行くのが良いのだなー」

「人の話を聞け!」


 ……おかしい。


 何か……違和感を感じる。これは……何の違和感だ?


「アッシュ、どうしたの? ……何かあるの?」


 俺が、表現できない違和感を感じたことをレイチェルは目敏く察知して聞いてくる。


 言葉に出来ない、しかしこの違和感は……



 そうだ。追われる立場のやつらが何故、明かりを付けているん、だ!?



 ——あれは……囮!?



「囮……既に囲まれている!? 皆、警戒しろ!」

「!! ボス! 周囲に気配がッ」



 俺が声を上げるのとキケセラが叫ぶのは同時だった。



 それと同時に周囲に黒い影が複数、舞い降りる。


 黒マントだ。


 その手にした曲剣を振り下ろす。



 ガキィィンッ!



 金属音を闇夜に響かせてワルターさんが長剣で防ぐ。そのまま返す刀とばかりに長剣を振り切るも、



「くっ!」



 森の木々に遮られ、ワルターさんに僅かな隙が生まれる。すぐさま黒マントの一人が素早く曲剣の刃を突き出すが、間一髪、セレスさんがその凶刃を阻む。



「こいつら、森の中での戦いに熟知しているわ!」



 あのワルターさんが手こずるとは……だが、ユリウスも同じく森の中での立ち回りに手こずっているようだった。


 その得物の直剣を振るうにも木々が邪魔をし、その合間から黒マントどもの曲剣が襲いかかる。



“そんな礼儀正しい剣術がヤツらに通じるかなぁ”



 バルの言わんとしたことは確かに一理あったわけだ。



 それだけでは無い。



「危ない、レイチェル!」


 ヒュッと風を切る音がすると同時に俺は隣のレイチェルを抱えて倒れ込む。


 ついさっき、彼女のいた空間を何か、恐らく矢の様なものが通り過ぎる。


「大丈夫か!?」


 レイチェルは頷き、すぐさま起き上がる。


 これはトラップか!?


 やはり周到に罠が仕掛けられている。




 もはや、戦場は乱戦の様相を呈していた。




 数に勝る黒マント達が森の中で木々を盾に立ち回りワルターさんやセレスさん、ユリウスを追い詰める。


 この前の草原のように何も無い所とは違い、邪魔な木々や藪が豊富な森の中ではその剣を存分に振るえない。




「うらあぁぁー、なのだー!」




 そんな中、よく分からない掛け声で黒マント共をブッ飛ばすのはバルだった。


 その巨体で縦横無尽に駆け巡り、もう数人ほどの黒マントを倒してしまっている。



 が、それに気付いた黒マント達が10人近くの数を揃えてバルを取り囲み、ジリジリと迫る。それに合わせてバルもゆっくりと間合いを測りつつ歩を進める。



「フンっ! 数がいれば良いってモンじゃないのだなー」



 と挑発するバル。



 が、これは……



「バル! 上だッ!!」

「!? 何となー??」



 ピンッという音と共にバルの頭上、大小の岩岩がその真下の人間を押し潰さんと襲ってくる。


 トラップだ。


 黒マントどもは取り囲むことが目的ではなく、バルをそのトラップの位置に誘導することが目的だったのだ。



「ボス! 危ない!」



 暗闇を電光石火、その姿が捉えきれない程の速さで駆け抜けバルに飛びつき、その場から押し出した影があった。


 ミゼルだ。


 彼の、疾風の様な速度のタックルで、巨体のバルもその場から飛ばされ、落石のトラップは無駄にその場の地面を押し潰す。




「イワン! 抑えろ!」

「…………」




 ミゼルの呼び声に応えて、闇の中を何かが幾つか走り抜け、黒マント共を打ちのめす。


 これは後で知ったのだが、イワンが投げつけたスリングという投擲武器から発射された石礫らしい。


 普通に投げつけるのとは全く違う、目にも止まらないスピードで的確に襲いかかる石礫は黒マントどもを血塗れにする。



「チッ!!」



 そのイワンに黒マントが曲剣で襲いかかる。



「……自分も忘れられちゃ困るッスよ!」


 その刃を片手盾(バックラーと言うらしい)で止めたのはトライドだった。


 そのまま逆の手に持つ片手剣で黒マントの曲剣を跳ね上げ、その喉元に切先を突き付ける。


「はい、じゃ大人しくしてて」


 いつの間にやら気配を消して黒マントの背後に回っていたキケセラが素早くロープで後ろ手に縛り上げて抵抗できなくさせる。



「やるじゃん、君ら。オレはトライド。騎士見習いだ。宜しくナ」

「……………………まだ戦闘中だ。油断するな」


 何やら再び挨拶を交わそうとしたトライドをイワンはすげなく返す。


 が、その返答に苦笑いしつつトライドもイワンを守る体制を取り、キケセラは再び闇の中に姿を消す。


 そしてイワンのスリングから放たれる石礫が残る黒マント共に襲い掛かる。






 当初のヤツらの奇襲から、徐々にこちらの体勢を立て直しつつあった。


 ワルターさんやセレスさんも互いに背中合わせでカバーしつつ立ち回ろうとしており、ユリウスがレイチェルや俺に黒マントが向かわない様に牽制、彼のその死角をバルがその体術で補う。


 戦場のトラップも闇に姿を消したキケセラが次々と解除していく。


 時間が経つに連れ、こちらが有利になっていく。






 ——いや、これは何だ!?



 俺は、戦場全体を眺めながら、時に指示を出しつつ、言いようもない違和感を感じていた。

 この違和感は一体……



「アッシュ、ヤツは……あのピエロは何処!? リアンちゃんは!?」


 傍のレイチェルが気付く。


 そうだ! ヤツは何処に!? リアンは!?


 …………しまった!?


「レイチェル! 小屋に行くぞ!」


 まだ続く戦闘をそのままにゴロー爺の山小屋に飛び込む。


 昔の記憶よりもかなり古びた様子の室内。


 煌々と明かりが灯る中、そこに居たのは、


「ゴロー爺!」


 ロープでぐるぐる巻きにされたゴロー爺だった。


「……あ、アシュレイか。それにレイチェルちゃんも」


 猿轡とロープをナイフで切り取るとゴロー爺はヨロヨロしながら、俺たちに説明する。


「や、ヤツら……もう一人、女の子がおったんじゃ。あの娘を連れて、ヤツら、馬で……」


 くそッ! やられた!!




 そうだ、これはリアンを取り戻さなければ俺たちの敗北なのだ。


 奴らは、俺たちが迫ってるのを知って罠を張り、囲い込みをして追い込んだように見せかけた。しかし、その実、その囲みそのものを囮にして、ピエロはリアンを連れてこの場から逃げ出したのだ!


 何故、それを見抜けなかった!!


 背中を冷たい汗が流れる。……俺はまた失敗するのか!?


 ……いや、させてたまるか!




「ゴロー爺、それは何分前だ!?」

「う、うむ。5分ぐらいかの。ついさっきじゃ」


 馬の5分……追い付くには。




「どうしたの、(あん)ちゃん。ボスが『(あん)ちゃんを助けろ』と言われたから来たけど」


 気付くとミゼルが居た。俺たちの動きを知ってバルがよこしたらしい。まるで瞬間移動の様な速さだ。


「……アッシュ……」


 隣ではレイチェルが俺に何かを期待するかの様に見つめていた。


 そうだ、考えろ! 今の状況を観察し分析し、リアンを取り戻す方法を推定しろ!




 ……そうだ。




「レイチェル、この闇夜で夜目が利くとしても馬が走れる道はどのルートになる?」

「待って、今、地図を出すわ」


 サッと折り畳んだ地図を広げる。


「ヘルベの森の道は多数あるけど、殆どが獣道。馬で駆けれる道となるとこのルートになるわ」

「いや、待て。そこは10年前に落石で閉ざされた道の筈。そこは使えない」

「!? そうね……となると、少し迂回しなければ……」


 それは例の落石と土砂で一部の道が閉ざされた、例の四つ辻を迂回ルートで訪れる道筋。


 今からの時間で追いつくとなると……


「オイラの脚なら獣道を使わずに直線ルートでこの四つ辻に行ける。この崖の上からヤツの馬を見つけることが出来るんだろ?」


 そうだ。それが一番速い。崖下の四つ辻を駆け抜けるピエロを崖上から飛び降りて取り押さえることが出来れば。


「でも、ミゼルくんだけが先行するなんて危険すぎるわ!?」

「オイラ、無茶はしないさ。リアンを助けたら時間を稼ぐ」


 ……山小屋の周囲ではワルターさんやバルが戦い続けている音が響いている。


 時間がない。


 俺は決断を下した。


「……それしか無いな。3分でいい。任せられるか?」


 俺が問うと、ミゼルはその歳の割に落ち着いた表情で大きく頷く。


「よし! 行くぞ!」




 何となく。


 それは単なるカンみたいなものだが、俺の中で予感があった。


“アイツが、あの罠を張るなら”


 そうで、あるなら。


 俺がそれを逆手に取ってやる!


⭐︎⭐︎⭐︎

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