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刻の輪廻で君を守る  作者: ぜのん
《第2部》『過去は復讐する』
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11章②『何度でもリジェネレイテッドな僕らの絆』

***



 気がつくと、そこは例の地下室だった。


 壁にかけられたランタンのぼんやりとした灯りの中、古ぼけた木のテーブルを囲んでレイチェル、バル、セレスさん、それにワルターさんまで。


 これは一体。




「なるほどね……」


 気がつくとセレスさんが、こちらをジッと見ていた。


「どうして、あの時ピンポイントでレイチェルさんにアドバイス出来たのかと思ってたけどキミが『刻の改変』を行ったからなのね」

「アドバイス?」

「……それ、アシュ氏が自分でレイチェル氏に言ってたってやつじゃん。自分で言ってて覚えてないんー?」


 アドバイス、と皆がこう言うからには俺の託した一手は伝わったのだな。


 隣のレイチェルを見ると、彼女は俺を見返して、ウンと強く頷いた。




 ありがとう。俺を信じてくれて。




 これで、後はその結果確認だが……


「蒸気船はどうなった?」

「蒸気船ー? アルサルトの船は3隻とも変わらず港におるぞなー?」




 ヨシッ!!


 思わず、一人でガッツポーズを取ってしまった。


 やったのだ! 俺は。


 リアンが蒸気船で手の届かない所に行ってしまうのを食い止めたのだ!!




「……まさか、本当に過去を修正するとはね。キミには驚きだわ。これは純粋に賞賛よ、アッシュ君」


 机を挟んで目の前のセレスさんがその黄金眼で俺を称えた。彼女にだけは、わかるのだ。これがどれだけ大変なことだったのかが。……以前の失敗も知っているからこそ。


 いや、それよりも。




「ありがとう、レイチェル!」

「何、言ってるのよ、アッシュ。教えてくれたのはアッシュ、あなたなんだから。あなたが、蒸気船にリアンちゃんが連れ込まれるのを防いでいるのよ」


 そう言ってレイチェルは微笑んだ。






 俺がレイチェルに頼んだのは、ユリウスに町外れの南にある漁師用の波止場にまで警戒網を敷いてくれということだった。


『ここが警戒網の穴に成り得るかもしれん』とも言い置いて。……そう言えば、意外に小心者のヤツは人手を回すだろうと思ってな。


 ヘルベの森に潜んでいるであろうピエロ達を捜索しに行ってくれ、と伝えても現状、状況証拠しか無く、厳重警戒で人手を取られている今の憲兵隊では余程の証拠が無ければ言っても動かんだろ、と思ってこちらは諦めざるを得なかった。





「それで、さっき少尉から連絡があったわ。夕方頃、波止場に怪しい漁師風の男たちが、『海の様子を見に来た』、と言って来たってね」





 ユリウスからの話では、雨が止んで波が落ち着いた頃、その漁師達が来たらしいが憲兵達が警戒してるのを見ると、そそくさと帰って行ったらしい。




 ——掛かったな。




 実を言うと、レイチェルに伝えてもらう一手にはもう一つ、付け加えてもらった一言があった。


『南の波止場は憲兵隊全体の警戒計画には入れず、ユリウスの12番隊のみが秘密裏に警戒網を敷いてくれ』


 こうする事で『敵』は、『波止場が使える』と思ったままで今日の夕方まで待機していた筈だ。


 結果は上々と言った所か。




 正直に言うと、この追加の一手を付けるかどうかは少し悩んだ。


 と言うのは、恐らくこれで町の上層部にいるであろう俺たちの『敵』は『憲兵隊の情報を知る内通者がいる、という情報が既に俺たちに知られている』と認識する筈だ。で無ければ計画外の波止場の警戒体制など、あり得ない。


 今後、憲兵隊は上層部に内通者がいる事を知っている、と『敵』は疑ってくるだろう……特に今回動いた12番隊が疑いの目で見られるはずだ。


 ユリウスだし、まー頑張れよ、と思ってしまったのではあるのだが。




 逆に、憲兵隊全体の警戒プランに南の波止場も載せるパターンもあったのだが、そうすると南の波止場からのリアンの受け渡しが封鎖されたことを知ったピエロ達が次の一手を打ってくるリスクがあった。


 内通者の認識がバレるリスクよりも、時間を与えて、リアンの別の運搬方法を取られることのリスクを防ぐためにはやむを得なかったのだ。




 だが、これで。




 まだ、ヤツらはヘルベの森にいる筈。


 今まで罠を仕掛けられてばかりなど防戦一方だった俺たちが、初めてアイツらの先手を取ることが出来た! 



 懐中時計は20:45を示している。


 俺たちの周りにはバルスタア団の少年少女達も神妙な面持ちで話を聞いている。


 ここから、ようやく得たこの先手をどうするか。



 セレスさんが口火を切る。


「今からヘルベの森に行けば夜中になるわ。暗闇かつ森の中というリスクを犯して強行するかどうかね」


「僕は攻めるべきと思うなー。アイツらから一刻も早くリアンを取り返すのだよー」


「セレスお嬢様、僭越ながら自分もこの方と同意見ではあります。理由は異なりますが」


「良い。言ってみなさい」


「ハ! ……これまでの行動から見て敵方はかなり策に長けた者のよう。時間を置けば更なる策を弄されるリスクが高い。今、我らが得た時間のメリットを活かすにはここで動かずは意味がないかと」


 バルとワルターさんは同意見の様だ。


 俺も同意見だが、これだけは言っておかなければいけない。


「あれだけ周到に罠を張ってた奴らだ。恐らくは潜んでる場所にもかなりな罠はある、と見た方がいい。やるならそれを突破するつもりで戦力を整えるべきだな」


 と、言いながら悲しいけど、俺はぶっちゃけ戦力外だしなー。


 だが、これ以上の戦力となると、




「私が憲兵隊に交渉してくるわ」


 レイチェルが手を挙げる。


「アイツら、相手にしてくれるのか?」

「……それは私が頑張ってみる」


 真剣な面持ちでレイチェルは宣言した。




「では、各人、準備を整えて30分後に時計塔の前に集合で」




 セレスさんの一声で皆がそれぞれに走り出すのだった。


⭐︎⭐︎⭐︎

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