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刻の輪廻で君を守る  作者: ぜのん
《第2部》『過去は復讐する』
32/116

09章②『最高にリグレッタブルな過去改変』

***


 『刻の改変者』


 初めて聞く単語だ。


 だが、それの意味するところは……




「このクロノクル市に『刻の改変者』がいるであろう事は予想していたわ。お養父様が感じとった『刻の揺らぎ』で」


 彼女は夕陽に輝く銀色の髪を靡かせながら、俺の反論を封じるかのように言葉を浴びせ続けた。


「そして、あなたはこれから再び『刻を改変』しようとしている。彼女の為に。違うかしら?」


 なぜ、それを……




「なんで……」


 つい、言葉に出てしまっていた。


 クソッ……


 俺のその反応に、セレスさんはその黄金の瞳を薄っすらと細め、口の端を上げて微笑む。




「私『たち』には、時間の流れに微かな揺らぎが見えるのよ。」




 私たち……『天使似』


 銀髪と黄金眼の少年少女。リアンと同じ。


 聖天使オフィエル。




「……仮に…………仮に、俺がその『刻の改変者』だとして何か問題があるのか?」

「アッシュ君が『刻の改変者』である事に問題は無いわ。問題は『刻を改変しよう』とするその行為」


 それのどこが悪い?


 あのネックレスは、レイチェルの心の支えだったものだ。俺が守らなければならなかったものなのだ。取り戻すことの何が悪い。




 セレスさんは、はぁ、と大きくため息をついた。


「『刻の修正』はキミが思っているほど容易ではないわ。……軽々しく過去を改変するべきでは無いのよ」


 何を言っている。俺は、もう既に3回も過去を改変している。なのに、今、レイチェルが泣いているのに、それを放っておけ、と?


 既に時計塔の時刻は17:39を指していた。




「『過去を変える』、それはキミが思っている以上に危険な行為なのよ……」




 そう、時計塔の針は17:40を指し……いや、




 その瞬間、文字盤は、



 11:40



 再び、時計塔は今と異なる時刻、そう俺が望む過去の刻を示す!


 そして、その文字盤と針先には再びあの青い燐光が灯されるのだった。




「これが……『刻の改変』!?」




 隣で俺と同じように時計塔の文字盤を見ていたセレスさんが呟く。


 彼女もこの現象が見えている?


 だが、その時には俺はまたしても、既に動けなくなっていた。





 世界が再び淡いモノクロームの灰色に染まっていく。


 俺も、セレスさんも、全てのものが静止し、全ての音が失われる無音の世界。


 そこに彼らは再び現れる。



《ウフフ……》

《アハハ……》



 頭の中に響く笑い声。


 灰色に染まる静止した図書館。その中に、青い燐光を纏った少年少女達がゆっくりと天井から舞い降りる。



《君は再び僕たちを呼び出した……》


《君が守りたいモノ……》


《ならば、その意志を……》


《そして、見せるんだ、僕たちに……》


 ——君の想いが、本当に世界に届くのか否かを



 瞬間、世界が反転した。













 そこは秋桜と桔梗の花々が咲き乱れる草原。


 その中で、ミリーとリアンが笑い合って互いにお花を頭に差し合おうとしてる。




 ここが11:25だったわけか。




 近くでくつろいでいた客達が、その正体を現し、リアン達に向かって走り出す。


 その内の一人がリアンに手が伸びる寸前。




「バル、リアンを守れ! そしてレイチェルも俺と走るんだ!」




 そう、これが最善手の筈。




 バルが飛び上がり、男の胸に飛び蹴りを叩き込む。


 セレスさんとワルターさんもそれぞれ、自身の武器を手に取り、こちらに向かってくる。そして、レイチェルも俺と共に走り出す。




 20人弱の襲撃者が一斉に襲いかかる。しかし、


「ふんっ。 遅い!」


 ワルターさんが一瞬で間合いを詰める。その長剣はまるで風を切り裂くかのように滑らかに振り抜かれ、襲撃者の曲剣を弾き飛ばす。


 あたりに激しい金属音が響き渡る。


 襲撃者が怯んだ隙を縫ってセレスさんがその囲いからこちらに飛び出す。


「私に任せなさい!」


 振りかざされた曲剣の刃が、俺達に届く前にセレスさんがすれちがいざま、細剣で叩き落とす。


「良し! 囲まれないように森の方へ行くぞ、レイチェル!」


 『昨日』と違い、襲撃者に囲まれないように森の方へ回り込んでリアン、ミリーと合流しようとする。あと僅か……!




 大丈夫だ。これでヤツが来ても皆、無事な筈。




 同じく、こちらの動きを悟ったミリーとリアンが襲撃者の輪を避けて森側に寄って合流しようとした、その時だった。




 視界の端……ヘルベの森と草原との境、ヤツがニヤリと笑って立っていた。




 その右手をくいっと持ち上げる。




 瞬間、




「アッ……!?」




 走っていたリアンの小さな身体が、まるで糸を引かれた人形のように空高く引き上げられる。




 あれは……そんな……




 全てが、まるでコマ送りのようにゆっくりと動いていく。空中に浮いたリアンの身体は高く弧を描いて、あの男——右眼に眼帯をしたモノクルのヤツ——ピエロの左腕にいだかれる。




「リアンちゃん! その子を放しなさい!」




 追いかけたレイチェルが、ピエロに抱えられたリアンを取り返そうと腕を伸ばす。




 ダメだ!




 ピエロが自由な右手で曲剣をふるう。




 レイチェルを抑えてその刃から、守ろうとした、その俺の手は——彼女の肩を通り抜けた。


 ——しまった!?





『刻戻りの時の俺に物理干渉は無意味だ』


 かつて、俺自身が自分に向けて話した言葉。





「キャァッ!」

「危ないのだー!」




ガキぃッッー!




 曲剣がレイチェルを襲う。それを横から追いついたバルがその拳で弾き飛ばす。


 その拳撃で曲剣の真ん中から叩き折られた刃の切先がクルクルと宙を舞い……




「……ッ!」

「レイチェルッ!」




 レイチェルの首筋を掠め……そして、何かがバラバラに砕け散る。


 あれは……ネックレス……!?




「フハハッ! 君ら如きで我らの邪魔が出来るとでも!? 目的は達成した! 行くゾ!」

 そう吐き捨て取り巻きの襲撃者達と走り去る。




「ボスーッ!」

「リアン! クソーッ!」




 バルが追いかけようとするも複数の襲撃者が盾となり、彼らをその拳で吹き飛ばすが、その隙にピエロ達はヘルベの森の奥へと消えてしまった。


 セレスさんが追い掛けるも、もう、追いつかない……。




 あれは……あの、空中浮遊は……あの場所に仕掛けられていた!?


 『昨日』とは違うルートを通ったから!? 罠のある場所を!?




 そんな……馬鹿な……俺は……刻戻りで……何を…………





 リーンゴーンリーンゴーン……



 鐘の音が鳴り響く。遥か遠く、時計塔の姿が見えないこのエルム草原の中で。



 バルが、レイチェルが、ミリーが、セレスさんやワルターさんが悲壮な顔をしている中で、またしても世界が灰色のモノクロームに染まっていく。


 何故だ!? 俺は、何のために刻戻りを!? 頼む! 待ってくれ! もう一度、もう一度、やり直させてくれ!!





 世界が反転していく。


 世界が反転。


 …………










 気がつくと、そこは夕闇が押し迫る元の図書館だった。


 時刻は……何時だ!?


 窓の外、夕焼けの向こう側、時計塔が指し示すのは17:55。


「……今、キミは戻ってきたのね、『過去』から」


 夕焼けの赤く染まる室内。そこで佇むセレスさんが口を開いた。


 そう、『刻戻り』を行う前と変わらない姿で。


 ……『戻ってきた』とは?


 俺の疑念を読み取ったのだろう。


「先ほども言ったように、私『たち』は刻の揺らぎを感じ取る事ができる……キミが過去を改変する前の記憶も」


 過去を改変……


 そうだ、俺は……レイチェルのネックレスを守る為、過去に戻って、そして……




 ——リアン




「あああああーーーッ!」


 俺は……レイチェルを守れなかった!! それどころかリアンを攫われてしまって……


 そうだ。俺が過去に戻らなければ……彼女は攫われたりなんかしなかった。なのに……俺が……全て俺のせいで!!


 俺なんかが、過去を変えようとしなければ。


 刻戻りをしなければ!!




「アッシュ!!」




 図書館に飛び込んできたのはレイチェルだった。悲壮な顔つきで、泣きそうになりながら、彼女は俺たちに告げる。




「今、憲兵隊から報告が来たの……蒸気船が港を出航した、と」




 それは、俺自身が引き起こした災厄だった。


⭐︎⭐︎⭐︎

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