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刻の輪廻で君を守る  作者: ぜのん
《第1部》『天使と過去の邂逅』
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04章①『喧騒下のアブダクテッドな天使様』〈承〉

***



 ——そうだ、いつもの様にするんだ。



「アッシュ! ダメよ! まだ動いちゃ……!」



 ——いつもと同じ。それにはまず、『観察』から入る。



「いい!? 血止めをしたばかりだから無理なことはしたらダメ。そうでなくても無茶して出血量が多いのだから……」



 ——観察。


 俺たちはピエロ達に襲われた……襲われたのだ。……くそっ、頭が働かない……だが、考えなきゃならない…………



「……アッシュ……ねぇ、アッシュ! 嘘よね……あなたが……戻ってきてくれないと」



 ——分析。


 ピエロ、それに黒マントの動きは計画されたものだ。当初は。降りてきた立ち位置、それに誘い込まれたあの場所は……。


 どうして? どこから? どうやって?



「……お願い……アッシュ…………私……あなたがいないと……」



 ——推定。


 奴等は罠を張っていた。恐らく。全ては、あの最初の邂逅の時に。





 ふと、世界に光がさした。


「……ここは……?」


 目に入ったのは白い天井。薬品の匂いと包帯のギシギシ音が耳に残る。


「アッシュ!? 目が覚めたの!? 馬鹿……なんて無茶するのよ……!」


 レイチェルが泣いていた。……コイツの涙を見るのはいつぶりなんだろうなぁ。


「アシュレイお兄ちゃん、良かったよぉ。アシュレイお兄ちゃんまでいなくなったら、ミリーは、ミリーは……ウワァァーーン」

「……アシュ氏、大丈夫か? 大分、血を流してたのでな。……僕もあんなに流してると気づかず、すまんかった……」


 俺の周りにはレイチェルだけでなく、ミリー、そしてバルもいた。


 ゆっくりと辺りを見回す。ここは、


「救護室だよ。君はそこのバル君に運び込まれたんだ。血だらけでね」


 部屋の入り口に立っていたのはユリウスだった。険しい表情で言葉を続ける。


「最初に、サファナ判事から憲兵隊に連絡があった。『誘拐事件が発生した』と。その直後に君が運ばれてきたんだ。……今、彼女は憲兵達の総員で捜索している最中だ」


 彼女……それは、リアンか。


「……まだ、見つからないの。でも、クロノクル市の全憲兵隊がリアンちゃんの捜索にあたっているわ。あのピエロもきっと捕まる」


 レイチェルが震える目で俺を見つめながら話す。それはどちらかと言うと俺に、というよりも自分自身に向けたような言葉だった。


「……悪いけど、僕はあまり期待できないと思ってるんだな」


 その言葉に現実を突きつけたのはバルだった。


「……それはどういう意味かな? 我らが憲兵隊が総力をあげて捜索しているのだ。……その力を信じられない、と?」

「……そだなー、信じられないなー。事件が起こらないように見張っていたはずなのに、その警戒網の穴を破られた憲兵隊にはねー」

「な!?」


 瞬間、バルとユリウスの間で見えない火花が散る。


「だから、僕は憲兵隊を信じられない」


 その中で、バルは断言した。


 ユリウスは、いやレイチェルも無言になる。


 重苦しい空気だけが場を支配した。


「じゃぁ、アシュ氏の無事も確認したし、僕は行くぞな」


 (きびす)を返し、部屋から出ようとするバルに、


「だが、君も、『彼女から目を離してしまった』んだよ」


 ユリウスの余計な一言が刺激する。


「!?」

「ダメよ! ……ユークリッド少尉、謝罪しなさい。その言葉は余計よ」


 一瞬、バルの殺気が爆発しかけた瞬間、レイチェルの言葉が抑えた。


「……そうだな、今のは自分の不徳だ。済まない。心から謝罪しよう」

「……いいさ。事実はその通りなんだからさー」


 バルは自嘲(じちょう)的に笑って、そして部屋=救護室から出て行った。





 取り敢えず、俺は身を起こす。


 肩から右腕まで手首付近まで包帯でぎちぎちに巻かれていた。身体全体がフワフワしてなんだか力が入らない。


「君は自覚してないかもしれないが、大量の出血をしてるのだよ。……傷を受けてからも大分、無理したみたいだな……」


 少尉が(あき)れたように解説してくれた。


 ようは、そこそこ大きな傷で、ジッとしてればまだ何とかなったものを、無茶して傷口をぶん回したからそこから血が流れ過ぎた、と言いたいらしい。


「全く、無茶だ」


 心底、(あき)れられた。


 が、そんな事はどうでもいい。


「申し訳ないが、俺に言えるものなら教えて欲しい。捜査状況はどうなっているのかを」

「確かに、誘拐犯の内、君たちが気絶させた2人はこちらで確保している……しかし、君は憲兵隊内部の情報を欲しているのか?」


 殺気を帯びた視線が俺を貫く。だが、悪いがこの程度で押し止まる余裕は俺には無い。


「……ユークリッド少尉、彼は有能よ。私が保証するわ」

「申し訳ありませんが、サファナ判事が常に噂する彼だとしても、何も実証されるものが無い以上、自分としては機密情報の共有化など許可出来ません」


 いや、別に機密情報を共有しろとは言っとらんだろ、コイツ……


 ユリウスと視線がぶつかり合う。


「クロノクル市法・憲兵組織法第23条その2、民間人への内部情報の寄与は個別案件における申請書による許可、もしくは憲兵分隊長以上の許可及び判事長以上の許可をもって……」

「わかったわよ、少尉。……私が、悪かったわ」

「いえ、サファナ判事の提案には申し訳無いのですが……」


 あのレイチェルが折れた。折れざるを得なかった。


 …………。


 皆が押し黙る中、ミリーの(すす)り泣く声だけが響くのだった。





 ミリーを乗せた辻馬車が走っていくのを見守って、俺はレイチェルに言う。


「レイチェル、すまないが手伝って欲しい」

「……はぁ、もう。こんな時くらいそんな改まらずに私を頼ってよ、本当」


 ……なんで、ちゃんと丁寧(ていねい)に頼んだはずなのに(あき)れられるんだ。わからん。


 ミリーには念の為、憲兵が一名一緒について家まで連れ帰ってくれる事となった。


 ミリー自身は俺たちが一緒に帰らないことに不安げな表情も浮かべたが、直後、


『うん、リアンちゃんをお願いするね』


 と、俺たちに全てを託すのだった。


⭐︎⭐︎⭐︎

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