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刻の輪廻で君を守る  作者: ぜのん
《第5部》『これが僕たちの選択』
113/116

⭐︎後日談⭐︎30.5章①『いと清しラヴァーズ達の生誕祭』

***30.5-1


 生誕祭。


 聖教ソリスト教国の主神ソリスト神の誕生日を祝う祭典……のはず。


 10年前、ソリスト教国と国交が生まれた際にクロノクル市国に導入されたらしい。


 以来、10年。


 なぜか、我が国でも年末近くにある、かの神様の誕生日を祝うことが当たり前になっており、その日の町は人々で溢れかえっていた。


「えへへ。生誕祭にアッシュと来たのは初めてね。すっごく楽しみ!!」


 隣のレイチェルは、るんるん気分で俺と肩を並べて歩いている。


 こんな朝早くから祝日にも関わらず、人、人、人だかり。


 昨夜に降った雪があちこちにうっすら積もって寒さが滲み入るにも関わらず、人々はそんなこと気にせず、皆、笑顔が溢れていた。


 大広場には即席の大きなソリスト神の像が設置され、その周りでは聖歌隊が歌い、子どもたちがキャンドル片手に踊っている。


 雪で真っ白になった街路樹のモミの木には大小様々なベルと星飾りがつけられ、訪れた親子が笑顔で眺めていた。


 俺は懐中時計の時刻を確認。


 今は9:45。


 確か10:00開演のはずなので、少し急ぐか。


「うん、そうね。少し走りましょ」


 と言って、紅玉石(ルビー)の婚約指輪が輝く左手を差し出す。それを掴んで、俺たちは小走りに目的地へと。


 何せ、スケジュールが緻密すぎるんだよ……。


 心の中で溜め息をつきつつ、3日前の出来事を思い出す。







 3日前の夜、夕食後に俺はレイチェルの3階の部屋に呼び出されていた。


 そこには俺だけではなく、珍しくミリーの姿も。


 窓から見える時計塔の時刻は19:20。


 天井や壁に掲げられたランタンが部屋を十分にその灯りで辺りをともしだす。


「俺だけじゃなく、ミリーまで呼び出してどうしたんだ、レイチェル?」


 わざわざ、こんな時間に呼び出すのは珍しい。


 まぁ、例の市民投票後、外務副大臣になったレイチェルは仕事で忙しいから、こんな時間しか取れなかったのかもしれんが。


「うん、レイチェルお姉ちゃんは生誕祭のことで話したいことがあるんだよねー」


 生誕祭?


 あー、ソリスト教のか。


「『あー』じゃないよ、アシュレイお兄ちゃん。大事なお話だよー?」


 何やら、ミリーに怒られてしまった。


「ありがと、ミリー。うん、そうなの。生誕祭のこと。アッシュには任せられないと思ったから私が1週間掛けてプランニングしたの」


 俺に任せないのは全く構わんが、一体、何をプランニングするのだ?


「はい、これよ!」


 と、手渡された10枚にもなる書類の表紙には、


『生誕祭デート・最強プラン 第7版』


 ……な、なんだ、これは!?


「すご〜い、レイチェルお姉ちゃん! やっと完成したんだね。ミリーもお手伝いした甲斐があって良かったよー」


「ええ、予約が必要なオペラはすでに予約チケットを手に入れているわ。それぞれの移動時間も考慮して計算しているし!」


「流石だね〜、レイチェルお姉ちゃん!」


 いやいやいや、これは何だ!?


 まさに分刻みのスケジュールではないか!? え? 何? 軍の特殊訓練でもさせられるのか、俺は!?


「何を言ってるのよ。私が様々な資料から研究と分析を重ねた結果、このプランニングが最適と判断したのよ」


 研究って何だよ……


 と、レイチェルが見せたのは部屋に散らばるデート雑誌の数々。もしやこれらがレイチェルの言う『資料』とやら、か。


 そのうちの数冊を取り出しパラパラとめくってみる。『彼氏と行くならこのお店!』、『最強のデートプランはこれだ!』など、よく分からない文章がページのあちこちに飛び交っている。


 最強ってなんだよ。何と戦うんだよ、おい。


 いや、そもそも、生誕祭って神様の誕生日だろ? なんでデートの日になるんだよ。


 一番わからんのはなんで誕生日当日じゃなくて本番が何故か前日になることなんだよ。よくわからんが、『生誕祭イブ』なる名称で祝日になってるし。


「……だって、アッシュと最高の生誕祭デートにしたいんだもの」


 ……え!?


「ほら、アッシュ、今まで生誕祭は人混みがイヤだって来てくれなかったじゃない……でも、今年は一緒に過ごしてくれるって言ってくれたから。だから、絶ッッ対に失敗しないように、完璧に調べたの」


 なるほど。俺と楽しく過ごすために、こんなに頑張ってくれたのか。


 レイチェル……。


 何やら、うるうる目で俺を見上げるレイチェルの頭をなでなでする。


「そうだな。せっかくだし楽しもうな、レイチェル」


「えへへー、うん!」


「ミリーもそれが良いと思うのですー」


 となると、


「なので、アシュレイお兄ちゃんはレイチェルお姉ちゃんの計画書に沿って行動するのですー!」


 う、うむ……。




 こうして否応もなく、生誕祭での俺の行動の全ては二人に決められてしまうのだった。









 当日の朝の7:00、時計塔の鐘の音で起床する。


 まぁ、その前にフィッチの声で起きてはいたが。


 計画書に指定された通り、黒のスラックスを履き、木綿のシャツ、よそ行きの紺色のジャケットを取り出す。


 こんな滅多に着ない服を持ってるの、良く知ってたなレイチェル。もしかして衣装棚とか色々と見てたりしてたんだろーか。


 あと、指定されたのは白のハンカチをポケットに入れとけ、と。


 ……何だろう。幼い子が親に色々と注意されてる気分になるが。


 いや、何も言うまい。


 指示された通り、レイチェル家の門前に行ってドアノッカーを叩く。


 すぐに中から返事がして、出てきたレイチェルは薄手の黒いコートに紺のワンピースに例のモノクル、胸元に輝く紅玉石のネックレス。その上に黒のコートを羽織った姿で現れる。


 そして、俺の姿を下から上までしっかり確認してウンと頷く。


「うん、指示通り。事前準備はバッチリね、アッシュ!」


 デートというよりこれから面接試験にでも行くようなセリフなんだが。


 まぁ、レイチェルがしたいならそれで良いんだけども。


 そして、俺たち二人は連れ立って辻馬車の待合所へ。


 俺たちのスケジュールを知ってるミリーが2階の窓から手を振って応援(?)してくれてるのに、手を振って返しておいたが。








 辻馬車の中で座りながら例の計画書の束を取り出し、レイチェルと共に確認する。


 10:00から中心街の劇場で公演されてるオペラを観劇予定。11:20から11:40の小休憩を挟んで終わるのが13:00。13:15に指定の喫茶店でお茶と昼食の休憩予定。その後、14:00に店を出て14:10に指定のブティックに……。


 いや、タイト過ぎんか、これ!


「このオペラが今、カップルの中で流行ってるんですって! すっごく泣けるって話題なのよ」


 ほー、さいで。


 俺の意見はスルーですな。


「異世界に転生させられた勇者が世界を支配しようとする魔王を倒しに旅に出るんだけど、その魔王が実は元の世界の恋人が転生した姿で物語の終盤、二人は悲劇の再会をするんですって」


 ちょ、ちょ、ちょっと待て! 『異世界』って何? 『転生』って何?


 急に特殊用語が出てきて、理解が追いつかない。


「何よ、『異世界転生もの』なんて普通じゃない。そんなのも知らないなんてアッシュ、流行(はや)りに、うと過ぎるわよ」


 そ、そうなんだろうか。


 何だろう。ちょっと自分の知らない世界過ぎて、早速楽しめるかどうかが不安になってくる。


「えへへ〜! とっても楽しみね、アッシュ!」


 あ、ああ……。


 こみ上げる不安を呑み込んで、俺はただ頷くしか無かった。


⭐︎⭐︎⭐︎

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