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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第6章:蜘蛛っ子の奮闘・ヴァンパイアも奮闘

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約束された未来

 アラクネの様子、聖地巡礼、加えて個人事業主となったアカーシャは、クロベエ率いるカラス軍団、小烏丸(アカーシャ命名)と行動を共にしていた。


 目的地は、自宅。

 なにをどう任せるにしても、住まいを知らないとどうにもできないからである。 


 ちなみになんとも話題になりそうな絵面だが、作戦名インジブルスカイなので問題ない。


「ほうほう……例のぶつは、旦那様に上手く渡せそうな感じなのだな?」


 と子供スマホ片手に大空を飛ぶアカーシャ。


 その通話相手は――。


《はい、愛美殿が上手く断れない状況に持ち込んでいました》


「フフッ、さすがはまなみである! フリーディアもよくやったのだ!」


 そう、忠臣フリーディアであった。


【戦え、ヴァンパイアちゃん】特装版の最新巻を千恵子が受け取るかどうか見届けてほしいという命を受けて、職場に潜り込んでいたのだ。


《しかし、アカーシャ様……隠行の術は使いこなせませんでした。せっかく教えて頂いたのにすみません》


「大丈夫なのである。教えてすぐ使えるようなものではないからな」


《お気遣いありがとうございます》


「うむ! そういえば、フリーディアよ……お前の目的は達成できたのか?」


《ああ、コミケ用の資料集めですね! もちろん、そちらも抜かりなく》


 コミックマーケット、通称コミケ。


 プロアマ関係なく、日本最大の二次創作の発表の場であり、特にアニメ、漫画、ゲームなどの作品を題材にした二次創作の同人誌が多く取り扱われる。

 

 今では企業が参加したり、公式がグッズなどを発売していたりもするオタクが一度は足を踏み入れない場所だ。

 

 他にもファン同士が交流し、新しい友達を作ったりする出会いの場であったり、各キャラクターに扮したコスプレイヤーも多く参加し、イベントを盛り上げていたりする。


 なんとそこに、愛美とフリーディアが合作で、【戦え、ヴァンパイアちゃん】の二次元創作を販売するつもりなのだ。

 今回の職場偵察は、そんな資料作りのインプットだったりもする。


 どういった経緯でそうなったかは、言うまでもなく、愛美とフリーディアが同じ(へき)を有するオタクだからである。


「そうか、ならばよかったのである!」


 と、はにかみ安堵するアカーシャ。


 自分のことだけではなく、臣下のことも考えている賢王なのである。


 けれど、


(まて……)


 全てが首尾よく進むなんて、こんな事の世界に来てあっただろうか? いや、ない。


 少なくとも、こんな滑らかに事が進むなんて一度もない。


 何とも悲しい経験則から、嫌な予感がしたアカーシャは、先程までのやり取りを思い出す。


(そういえば――)

 

 先程の会話の中で、気になることがあったのだ。

 あまりにも自然な流れだった為に、聞き逃していた。


 それは……


「フリーディアよ……もう一度聞くが旦那様に姿を見られたのだな……?」


《は、はい! でも、完全にではないですよ? 触れられそうになったのは驚きましたが……》


(お、終わったのである……)


 千恵子に姿を見られたことであった。


 フリーディアが姿を見られただけであって、アカーシャには関係ない。


 誰もがそう思うだろう。


 それはきっと、電話越しで、「もしーもーし……アカーシャさまー? って、あれ? 聞こえてない?」などと、呼び掛けているフリーディアであってもだ。


 だが、それはない。


 ないのである。


 相手は、ただの人間ではない。


 対人外においてシックスセンスをこれでもかと言わんばかりに発揮する千恵子なのだ。


 日常の何気ない会話から、アカーシャの機微を察知し、嘘を見抜いてくる。


(この話を振られたら……絶対バレてしまうのである〜!)


 いや、対人外というよりは、対アカーシャかもしれない。


 なんにしても、こうなってしまうと、約束された未来が待っている。


 魚肉ソーセージ三日間お預けという刑が……。


「グスッ……ズルル」


 確定された未来に涙目になり、鼻水を啜るアカーシャ。


 けれど、ここで落ち込んだところで未来は変わらない。


 というか、後ろを飛ぶクロベエ、小烏丸の面々にこんな情けない姿をみせるなんて、雇用主として恥ずかしい。


 そう思ったアカーシャは、顔を左右に振ってスマホを耳元に持ってきて、


「す、すまぬ! ちょっと目にゴミが入ってだな――」


 と、この間も通話を切ることなく呼び掛け続けていたフリーディアに応じた。


《そうだったんですね! 風の音ばかりが聞こえたので、電波が悪くなったのかと切るところでした》


「そうか……うむ……」


(これ、出なくともよかったのではないか……?)


 なんて至極真っ当な言葉を脳内で呟いた。


 止まる会話。


 しかし、電話越しのフリーディアには、当然伝わることなく、


《はい! そういえば、アラクネ様はどんな感じですか? 気にはなっていたのですが……大した用でもないのに、直接連絡するのも迷惑かなーと思っていまして――》


 などと、忠臣らしくアラクネの心配をしていた。


(なんというか……相変わらず一本木なやつだな……ふふっ)


 このズレた感じに、一緒に愛美の家へ向かったことを思い出して、なんだか嬉しくなってしまって、


「迷惑なのではないと思うぞ? きっと、お前から連絡を貰えば跳ねて喜ぶはずなのである!」


 気が付けば、純粋に会話を楽しんでいた。


《そうですかっ! でしたら今晩辺り、連絡させて頂きます》


 こうして、しばらくの間、アラクネを成長を見守る和やかな通話が続いた。

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