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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第6章:蜘蛛っ子の奮闘・ヴァンパイアも奮闘

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敢えての曖・昧・Me。

 時を同じくして、愛する旦那様である千恵子は、冷房の効いたオフィスで例の如く、夏休みで溜まっていた仕事を物凄い速さで捌いていた。

 


 ――タンッ!



 エンターキーを力強く押す音が響く。


「なんでこういう時に限って、部長いないのさ!」


 などと、やや季節外れの夏風邪で有給取得中の部長にイライラ、イライラ。

 パソコンのモニターが歪みそうなくらいの目力で見つめている。


(大丈夫かなー? ラクネちゃん……怖がっていないかな)


 部長にというよりは、可愛いアラクネの初登校だというのに、学校まで送れないことにイライラしているのだ。


 なんとも、逞しい千恵子である。


 それから千恵子は、未読となっているメール、部長不在の為、強引に入れられたグループチャットで飛び交うやり取り、それに即座に反応し、担当者ベースで誤解が起きないようにメンションしつつ返信していく。


(絶対、私の仕事じゃないよね……これ)


 そうは思いながらも、部長への報告も立派な仕事。

 やるか、やらないかで問われたらやらざるおえない。

 

 だから、休みの期間に進めた事柄をメモに書き残す。


(うん……我ながら極まっているな)


 アカーシャの影響を受けて、無茶はしなくなった。

 自らを卑下し、擦り切れても働き続けるといったことも。


 けれど、


(……ムカつくけど、まぁ、仕事だし、ちゃんと対価はもらっているしね)


 そうなのだ。


 九月に行われた人事評価で、評価MAXの昇給がなされていたのである。


 それだけではない。


 幅霧工場長の口利きで、扶養制度まで適応されるようになっていた。


 なので、


「こ・れ・も……立派なお勤めっと!」


 そういうと千恵子は、タタン! リズム良くキーボード入力を済ませた。


 そして、ググィーっと席で手を伸ばして体をほぐす。


「んっ、ふぅー! 取り敢えず、急ぎのやつおーわり」


 ディスクの脇に置いていた、アイスコーヒーを一口、二口。渇いた喉を少し潤してから、再度仕事に取り掛かる。


 すると、向かいから、声を掛けられた。


 千恵子は、視線を上げる。



 そこには――。




 ☆☆☆




「本当に、激強ですよね! 山本さん……なんていうか、パパさんって感じです!」


 白のブラウスに灰色のパンツスタイル、といったオフィスカジュアル。そこに何とも個性的なデュラハン柄のケースに入ったスマホを首からぶら下げた愛美であった。


「いや、パパって……」


「いやいや、だって、良く考えてみて下さい! 家に帰ったら、ご飯とお酒を用意してくれる女の子がいるんですよ? その上――」


 否定したことが、愛美のなにかに触れたのか、理路整然と……いや、身振り手振りを交えて、まるで自らが主宰するプレゼンかのように千恵子の置かれている状況を話し始めた。


「あ……うん、そうだね……うん、そう見えなくもないね」


 肯定も否定もしない千恵子。


 まさに曖・昧・Me。


 だが、それは仕方なかった。


 確かに職場で個人的な話をするのは、プライベートの問題で昨今の時代からしてあり得ない。


 けれど、この問題にはアカーシャが密接に絡んでいるのである。ここにいる全員がアカーシャのことを快く思い、またアラクネにも良い印象を持っているのだ。


 なので、怒るに怒れない。


 というか、そもそも注意したくても事実で、


(アカーシャのことも、ラクネちゃんのことも知ってるしなー……ここで否定するのも、なんかデレているとか言われそうだし)


 いわゆるツンデレキャラ確定フラグというやつである。


 更に周囲を見渡せば、他の部下や同僚が、なんとも生暖かい視線を向けている。


 色々と理由付けをしてはいるが、結局のところ、この職場全体で見守られている感じがこそばゆくて、なれないから肯定も否定もしたくないのだ。


 しかしながら、相手は愛美。


 周囲のほんわか見守ろうという雰囲気に気付いているわけもなく、ガンガン本音を吐露していく。


「アカーシャちゃん……いや、我が王がママさんでしょ? アラクネちゃんが、娘さんですよ!」


 言ってやったと言わんばかりの堂々たる態度。


 鼻は高々、声もオフィスに響き渡る。


 その時だった、千恵子はちょいちょいと、手招きする。


「マナちゃん……ちょっといい?」


「えっ?! なんです? もしかして、何か不足していたとか……」


 間違いなく違う。

 不足ではなく、過剰供給状態である。


 依然として状況を飲み込めていない愛美に呆れつつも、上司として同じく女性(アマゾネス)として、気持ちを込めて注意した。


「百歩譲って、話すのはいいよ……けど、声が大きいって!」


 込めた気持ちが大きかったからだろう。

 その声は、オフィスの端まで届いたようで、一番奥で作業していた専務までもが、「な、なんだ?」と声を上げて千恵子の方に視線を向けた。


「あ、いや、その……大声を出してすみません……」


 生暖かいから、暖かいに変わるオフィス雰囲気――まさしくブーメランであった。

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