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山本さんのお嫁さんは、最強のヴァンパイアちゃん!?  作者: ほしのしずく
第6章:蜘蛛っ子の奮闘・ヴァンパイアも奮闘

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黒くて賢いあいつ(Gではありません)


 アカーシャは、姿を消したまま、空を飛び作戦名IS”インビシブルスカイ”を決行していた。


(ほう……なかなかに楽しそうであるな!)


 視線の先には、おニューのランドセル、その肩紐の部分をぎゅっと握り締めて歩くアラクネがいた。


 かなり足取りは軽い。


 けれど、


「なぜ、電信柱から電信柱へ移動するのだ……?」


 姿は、隠形術で消えている。

 その上、目視できない距離であとをつけているのである。

 

 いくら警戒心の強いアラクネでも、こちらに気づくことはまずない。


 それなのに、周囲の様子を伺いながら、登校している。


(一体、なにが原因なのだ……わからぬ)


 深まる謎に、アカーシャは眉間にシワをギュギュッと寄せる。


 すると、後ろからバサバサと羽の音が聞こえた。


(むむっ、いつぞやの鳩か……?)


 鳩、ベランダでよく目にする、この国の平和の象徴。


 だが……。


 なんというか、それにしては羽音が大きい。


 というか……。


 (ん? なんか多くないか?)


 それも、一羽ではない。


 確実に三羽以上いる。


 アカーシャは、咄嗟に振り返り、その音の正体を見極めようとした。


「何奴……?!」


 その視線の先には……。


 漆黒の羽に黒き瞳を持ち、「カーカーカー」と特徴的な鳴き声をあげる、賢い鳥ランキング上位に必ず位置する(知恵袋調べ)あいつがいた。


「なんだ、カラスか……びっくりさせるでない!」


 そう、カラスである。


 群れというほどの数ではないが、数羽、姿を消したはずなのに、ぴったりと後ろについている。


 なぜ烏が、姿を消したアカーシャの存在を認知し、あとをついてきているのはわからない。


 けれど、その雰囲気からして、敵対心を抱いているようには見えなかった。


 なんというか、どちらかというと、好意にも近いものを抱いているようにも見える。


 例えば……。


(お酒を見た時の旦那様みたいなのだ……)


 その表情は緩み、まるで大好き日本酒、ビールを前にした時の千恵子の、あの早く口に入れたそうな表情と一緒だ。

 


 ――刹那。



 アカーシャの脳内に、稀代の名探偵でも辿り着けない結論が浮かぶ。


「あれ……? ということは、このカラスたち……我を食べ物かなにかだと思っているのではないか?」


 それなら、合点がいく。


 動物ならではの、嗅覚や野生の勘が働いたのだろう。


「いや、でも、我が食料って……おかしくないか?」


 距離を詰められないように、飛行しつつもボソリと呟くアカーシャ。


 すると、その言葉を待っていたかのように、カラスたちはバサバサと羽を羽ばたかせて、まるで仲間を呼ぶように「カーカーカー」と鳴き始めた。


「むおっ!? な、なんなのだ!」


 戸惑うアカーシャ、鳴くカラス。


 そんなカラスたちにアカーシャが呆気にとられていると、


「……ふ、ふえたのである!」


 あっという間に、数を増やしていた。


 その数、おおよそ、百はゆうに超える。

 

(一体……何が狙いなのだ)


 相手は、賢いとは言えど、ただの動物……鳥類である。


 しかし、相手を見下したり、過小評価するのは良くない。


 それは、夜の国の世界でも、商店街でも学んだことだ。


 アカーシャは身構えながら、思考を巡らす。


 すると、ふと思い出した。


 今朝、食べた魚肉ソーセージのことを。


(まさか……そういうことか?)


 恐る恐る、自らの口元に手を近付けていく。


 まさかそんなことがあるわけがない。


 自分は元ではあるけれど、王。


 しかも、民からも臣下からも、敵からも畏敬の念を抱かれていた。


 そんな自分が口元に食べカスを付けたまま、家を出るなんて……。


(つ、ついているのだ……)


 手に触れるは、何度も触れてきた大好きな魚肉ソーセージのクニュっとした感触。

 

 例え、その大きさがミリ単位であろうと、否! マイクロ単位であろうとも、間違えるわけがないのである。


「はうっ、我としたことが……」


 恥ずかしくて、恥ずかしくて、隠れる場所があるなら姿を消したい。


 もうすでに誰にも姿が見えていないのだけれど。


「って、もう姿を消しているではないか……」


 自身が姿を消していることを思い出したアカーシャは、顔を赤らめながらも再び思考を加速させる。


(というか、なぜ姿を消し気配も消しても、烏たちは追いかけてくるのだ……)

 

 さらに食べ物を求めるような雰囲気を纏いながらである。

 

 どう考えても、ついてきているカラスたちは、アカーシャの口元に付いた魚肉ソーセージを追ってきたわけで。


(うむ、もしや……それだけ、この魚肉ソーセージが美味しいということではないか?)


 好きな物を共有できた(アカーシャは、そう思った)ことが嬉しくなって、


「ニヒヒ! 同じ釜の飯を食うのは、仲間というしな」


 いつぞやと同じ考えに至り、指をパチンと鳴らして姿を現した。


(ふふっ、もしかしたら、こやつらも我の臣下になるのでは……)


 などという、理想まで妄想する始末である。


 けれど、現実はそんなに甘くない。

 


 アカーシャが喜んでいたのも束の間。

 


 案の定、カラスたちには、その意味が伝わらなかったようで、突如として姿を現したことに驚き、すぐさま臨戦態勢となった。


 大きな一羽のカラスが、「カー!」と鳴き声を響かせると、百羽のカラスが隊列を組んだ。


 その視線は、鋭く敵とは言わなくても、戦おうとする決意が宿っていた。


(ほう、なかなかの練度であるな……)


 一方、意味を理解していないアカーシャは、嬉しそうに腕組みしていた。


 そして、綺麗な隊列に感心し、目を瞑り頷いた瞬間。


「カー!」


 と先頭にいた大きな一羽が高らかに声をあげ飛びかかる。


 同時に、後方に控えていたカラスたちもあとに続いた。


 的確にアカーシャの口元目掛けて、一直線に向かっていく。


「ぬわっ!?」


 予想打にしない動きに、慌てふためいてしまうが、そこはアカーシャ。


 即座に応戦モードに切り替えると、再度パチンと指を鳴らして、大人の姿に戻った。


「こんっのぉっ! バカカラスども立場を弁えるのである!」


 そう冷ややかな視線で告げると、自ら指先を傷付けて血液を数滴、空中に散らす。


 すると、その血液は、瞬く間に広がって、細い針のような形状に変化し、カラスたちを取り囲んだ。


 それはまるで血液の牢獄。


 いや、ほぼジャングルジムだ。


「ふん、だから、立場を弁えろと言ったのである」


 なんとも締まらないような気もするが、それが寧ろ効果的だったようで、先程まで好戦的だった烏たちは、すっかり大人しくなっていた。

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